Mistakable Symptoms
「自分できる自閉症チェック」や「自閉症の症状/特徴」 で、「ウチの子、もしかしたら自閉症かも・・?」と、疑いを持たれた方。まだ、決めつけないで下さい。幼児期には症状が似ているため、自閉症と勘違いされ る病気も数多くあります。逆に、自閉症でありながら見過ごされたり、自閉症の合併症もあります。チェックリストは、あくまでも参考程度にして、正式に判断 を下すのには、やはり、専門の医師のいる医療機関で正しい診断を受けることが不可欠です。
自閉症と間違われやすい病気/障害の例をご紹介しましょう。
① 知的障害 Mental Retardation ⇒詳細は「自閉症と併発しやすい症状」参照
知的能力の発達が遅れている状態で、低機能自閉症(カナー症候群)の場合は、たいてい知的障害も付随しているので、この障害自体が自閉症だと思われることがありますが、知的障害は必ずしも自閉症だけに合併しているものではありません。症状の程度によって、最重度、重度、中等度、軽度の4段階に分けられます。
② チック症 (トゥレット症候群)Tic Disorder ⇒詳細は「自閉症と併発しやすい症状」参照
神経の病気の一つ。まばたき、首振り、顔しかめ、口すぼめ、肩上げなどというふうに上半身に症状が表れ、大きくは飛び跳ね、足踏み、足けりなど全身に出る「運動性チック」と咳払いや鼻ならし、うなり声、短い叫びを連発する「発声(音声)チック」に分けられます。この症状は、自閉症と似ている病気であると同時に、合併症でもありますが、チックの症状ばかりが目につくのであれば、自閉症の前に「チック症」の疑いがあります。
③ 情緒障害 Emotional Disorder
自分の感情をうまくコントロールできずにいつも不安定で、適切な行動をとるのが難しい心の病気なのですが、自閉症と間違われることも多々あります。今日本では文部省が自閉症を対象として含めた特殊学級を情緒障害学級と命名しているために、さらに混乱を招くもとになっています。原因は対人関係の問題(小さいころ両親がケンカばかりしているとか、親に叱られてばかりいるとか)、険悪な環境は情緒障害を引き起こすキッカケになることもあります。
■代表的な症状
【チック】
上記のように、強迫的な傾向を示す子や精神的な緊張が強かったり、抑圧的なときに症状が出ることが多いです。⇒詳細は「自閉症と併発しやすい症状」参照
【爪かみ】
何かをガマンしていたり、何かにおびえていたりする時の行為です。爪がなくなるまでかんでしまう場合は、完全に情緒障害だと思っても間違いないでしょう。
【抜け毛】
抜け毛ではなく、この症状は自分で髪の毛を抜いてしまいます。感情を抑えていたり、自分を責めていたり、すごく緊張しているときなどに見られます。
【緘黙(かんもく)】
初対面の人がいたり、慣れない場所、またどんな場面でも全然しゃべらなくなるといったことがあります。ひどくなると動作も固まってしまいます。
【睡眠障害】
この障害は「不眠=眠れない」のイメージが強いですが、不眠の反対の過眠も含まれ、良質な睡眠が得られなくなる病気です。過眠とは、特に疲れてもいないのに日中に異常な眠気が襲い、大切な場面でも居眠りをしてしまう障害。1日に10時間以上も眠る状態が2週間ほど続くようであれば、過眠症と診断されます。情緒が不安定でこのような障害が出る場合もありますし、自閉症の子が睡眠障害を発症しているのかもしれません。
⇒詳細は「自閉症の症状/特徴」参照
※そのほか、頭痛や腹痛、下痢、嘔吐といった症状も出ます。さらに声が出せなくなる(失声)、手や足が動かなくなる、目が見えなくなるなど重症になるケースもあります。
④ 学習障害 Mental Retardation ⇒詳細は「自閉症と併発しやすい症状」参照
学習障害とは、以下の例のように「話す、聞く、読む、書く、計算する、推論する」のいずれかの能力を習得したり、発揮することが難しくなる障害のことです。また、他者とのコミュニケーションがうまくとれない、集団行動ができないといった症状を示すこともあり、社会適応が難しくなる場合もあります。
- 「話す」ことが困難(話が飛びやすい、自分の経験や体験を説明することができない)
- 「聞く」ことが困難(指示の内容をすぐに忘れ、何度も聞き返す)
- 「読む」ことが困難(教科書の朗読で、どこを読んでいるのかわからなくなる)
- 「書く」ことが困難(ひらがなやカタカナなどの文字の左右や上下が反転する)
- 「計算する」ことが困難(くり上がりの計算ができない、単位が理解できない)
- 「推論する」ことが困難(空間能力に乏しく、図形の問題が解けない)
⑤ てんかん Epilepsia ⇒詳細は「自閉症と併発しやすい症状」参照
発症率は100人に1人と言われており、決して珍しい病気ではありません。自閉症などのさまざまな疾患に合併することも多く、誰にでも発病し得る身近な病気です。
⑥ ダウン症 Down syndrome
ダウン症候群は、どちらかというと女性よりも男性に多くみられ、症状は人それぞれですが、ほとんどの場合、特徴的な顔つきになる・知的障害・筋緊張低下の3つの症状が表れます。合併症として多いのは心疾患ですが、他にも斜視などの視覚異常、難聴、足関節の外反変形、鎖肛などの消化管奇形、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症、白血病などさまざまなものがあります。出産年齢が高ければ高いほど、リスクが上がるという報告もあります。ダウン症の子が生まれる割合は、1000人に1人と言われ、そのうち全体の10%程度に、まれに自閉症が合併します。
⑦ 注意欠陥多動性障害 ADHD:Attention-Deficit Hyperactivity Disorder
⇒詳細は「自閉症と併発しやすい症状」参照
一般的には、「ADHD」の名で知られている、発達障害の一種。
子供にも大人にもみられる障害であり、どちらかというと女性よりも男性に多いようです。不注意・多動性・衝動性の3つが主症状ですが、いわゆる「病気らしい」症状ではないため、周りから「しつけが悪い」「だらしないだけ」と誤解されることが少なくありません。しかしADHDは、本人のやる気や、親の教育が関係しているわけではありません。生まれつきの脳の機能障害であるため、本人の意思や努力ではどうにもならないのです。
ADHDの人は、物事に集中したり人の話を黙って聞いたりすることが苦手です。子供の場合は、学校の授業中でも、黙って席に座っていることができず、常に体の一部を動かしたり、キョロキョロしたりして、先生にしばしば注意されます。また興味の対象がつぎつぎと変わり、忘れ物・無くし物をよくするという特徴もあります。
ADHDは成長するにつれ自然に治る場合が多いですが、そのまま継続することもあります。大人のADHDの場合でも、集中力や落ち着きのなさといった症状は改善されません。会社では、会議中にうわの空になったり、仕事の段取りが上手くできなかったり、机の上が散らかっていたりすることが多く、周囲のひんしゅくを買いやすいです。男性の場合は攻撃的な性格であることが多く、人と衝突したり、反抗的な態度をとったりして、人間関係でトラブルを起こしやすいです。大人の場合は、この衝動性がアルコール中毒や、車の乱暴な運転といった形で表れることがあるので注意が必要です。
不注意や動きが多いなどは、誰にでも(特に子供)みられることですし、衝動性が強いのは単なる「短気な性格」ということもあり得るので、ADHDか否かを判断するのは非常に難しいです。
⑧ 統合失調症 Schizophrenia
一見すると、いわゆる普通の人と何ら変わりありませんが、内面では、第三者には理解しがたいたいへんな精神的苦痛を日々感じています。有病率1%、つまり100人のうち1人に発症する決して珍しくない病気です。思春期から青年期のころに発症することの多い精神疾患の一種で、19世紀末には早発性痴呆症、1937年からは精神分裂病などと呼ばれていましたが、名前から誤解が生じやすく、人格否定につながるとの声もあったため、2002年より統合失調症という言葉を用いることに決められました。
長いあいだ原因不明であったため、昔は不治の病と恐れられたり、偏見や差別の対象になることが非常に多かったですが、近年やっと脳内の伝達物質・ドーパミンやセロトニンの過剰亢進が大きく関係していることが明らかになりました。なぜこのような現象が起きるのかまではわかっておらず、原因遺伝子は特定されていませんが、現時点では遺伝的要因にストレスなどの環境的要因が組み合わさることで発症するという説が有力なようです。
■ 分類
統合失調症はさまざまな精神症状が表れる疾患ですが、下記のように、大きく2つに分けることができます。
陽性症状
第三者にもはっきりと異常とわかる症状のことを言い、具体的には、幻覚、妄想、独り言、空笑などが挙げられます。自分は命を狙われているなど、現実にはあり得ないことを周囲に主張したり、誰もいないところで声が聞こえたり(幻聴)、自分の考えていることが外部に漏れている、思考を誰かに操られていると感じたりするのも特徴です。
陰性症状
陽性症状とは反対に、意欲や感情など本来あるべきものが失われて非活動的になるという特徴があります。思考力が低下して集中力が持続しないため、日常生活や社会生活に支障をきたします。他者と関わりを持つことがおっくうになり、引きこもりになる場合も少なくありません。
昔は、「自分の殻に閉じこもり、他者との接触を避ける陰性症状」が、自閉症の症状とよく似ていたため、自閉症と統合失調症は同一の病気であるとされていましたが、現在では、自閉症に特有の知的障害やコミュニケーション障害といった症状は、統合失調症にはなく、反対に、妄想や幻聴は自閉症にはない症状なので、2つは全く別の病気であることが明らかになっています。しかし未だにアスペルガー症候群と誤診されることも多いため、薬や治療に効果がみられない場合は、セカンドオピニオンの検討が必要です。
【関連/引用/参考サイト】
⑨ フェニルケトン尿症
PK=Phenyl Ketonuria
遺伝子の欠損によって、必要な酵素(アミノ酸の1つフェニルアラニンをチロシンという別のアミノ酸に変える酵素)が作られず、血中に有害な物質(フェニルアラニン)が蓄積され、それが中枢神経の発育を阻害し、知的障害を引き起こしたり、赤毛、色白などのメラニン色素欠乏を引き起こすという病気で、PKUとも呼ばれています。
遺伝病の中でもメンデル遺伝するもので、父親・母親、両方がこの遺伝子を持つ場合にのみ、子どもに症状が現れます(常染色体劣性遺伝)。父親と母親は、フェニルケトン尿症をもたらす遺伝子の変異を持ちながら、なんら特別な症状はもっておらず、フェニルケトン尿症の子どもが産まれて初めて自分がその遺伝子を持っていることに気がつくというわけです。日本では8~10万人に1名(300人に1人)くらい、欧米では1万人1人、中国では1万5千人に1人の発症率だそうです。常染色体劣性遺伝病は1,500種類あり、どんな人でも少なく見積もって3つ程度の遺伝子変異を持つという計算になるので、誰もが少なからず遺伝的な負因を持っている可能性があるのです。
このPKUという疾患は、早期に低フェニルアラニンによる食餌療法を開始しないと、一部の自閉症児に見られる知能の発達障害や赤毛、色白などのメラニン色素欠乏症状、けいれんをおこすなどの重篤な症状が現れますが、生命にかかわることはありません。因みに・・・映画「アルジャーノンに花束」の主人公Charyの知的障害の原因は、原作では、フェニルケトン尿症となっています(映画の方では触れられていません)。
フェニルケトン尿症の遺伝子は、1986年に初めて見つかりましたが、その後、350種類の異なる遺伝子が見つかっています。要するに1つの病気でありながら、その原因は350通りある(そのどれもがフェニルケトン尿症を起こす)ということになります。その中には、治療の必要がない軽症例もあったため、昔から知られているフェニルケトン尿症のことを、「古典的フェニルケトン尿症」と呼ぶのが正式になっています。
治療は食事療法が中心になります。そしてこの食事療法には大きな2つの柱があります。ひとつが食事からのタンパク質の摂取を厳しく制限すること、そしてもうひとつがフェニルアラニン以外のアミノ酸を「治療用ミルク」から補充することです。
まず食事制限についてですが、PKUの患児といえども食事から少ないながらもタンパク質を摂取しなければなりません(フェニルアラニンは人間の体内で作ることができない必須アミノ酸なので、全く摂取しないと生きていくことができません)。その量は個々の患児によって異なりますが、共通して言えることは肉や魚、卵、豆類、乳製品などのような高タンパクの食品を食べることはほとんどできません。
普段気にとめることもないと思いますが、食事に制限のない人たち(私たち親も含めて)が食べるもののほとんどすべてに多少なりともタンパク質が含まれています。PKUの患児それぞれが一日に摂取できるタンパク質の量が決められており、毎日どの食品を何g食べたか、というように食品の量を計算しながら一般の食品を食べています。
しかし、食事だけではフェニルアラニン以外の栄養素が不足してしまうため、食事以外に「治療用ミルク」で補います。このミルクにはフェニルアラニン以外のアミノ酸の他、炭水化物や脂質、ビタミンやミネラルといった本来食事から取るべきものが含まれており、医薬品として医師より処方されています。定期的な医師の診察と検査の元、各自指示された規定量摂取することが、食事療法を行っていく上で最も重要とされています。
1977年に、生まれて数日後にマス・スクリーニング検査を行うという制度ができ、ほぼすべての患児が早期に発見されただちに治療が開始されるようになりました。そのため現在では食事以外は、全く普通の生活を送れるのですが、給食など普通の食事が制限されるので、お弁当を持参しなくてはならないということで、とても大変です。
【関連/引用/参考サイト】
・有機酸テストに関する研究発表 - グレートプレインズ研究所
・Husserl現象学による精神病理学からみた自閉症―解釈の試み
・アルジャーノンに花束を :Chary(1968/US)-メディカルでビューティな映画
⑩ その他の疾患
【 脆弱X症候群 】
X染色体異常が原因でおこる病気。大きく長い頭と耳、低身長、関節過伸展などが
主な症状です。
【 結節性硬化症 】
通常は、頬の赤みを帯びた数ミリの盛り上がったいぼの様なもの(顔面血管線維腫)、
てんかん、知的障害がみられる病気ですが、中には知的障害やてんかんのない人もあり、診断技術の進歩で 下記のようないろいろな症状で診断されることも多くなっています。乳児期のてんかんのあと自閉症を発症する人がいます。
・新生児期に不整脈をおこすことがある
・乳児期に難治性てんかんをおこすことがある
・重度な知的障害を合併する人がある
・学童期から目立ってくる顔の線維腫がひどい人がある
・10歳前後に脳腫瘍を合併することがある
・成人になって腎臓の良性腫瘍が大きくなり、出血や圧迫症状が出ることある
【 妊娠中のウィルスなどによる感染 】
風疹では、胎生3ヶ月までに感染すると耳、眼、心臓などに障害が残ることがあります。その他のウィルスや梅毒感染が関係する場合も報告されています。
【 ヘルペスなどによる脳炎 】
ヘルペスウィルスが脳の炎症をおこすため、炎症部分に障害が残ることがあります。炎症が急激におこる時期には、発熱、頭痛、吐き気を伴います。