Human Rights Law for PWDs
日本らしい曖昧さ グレーゾーン盛り沢山の法律
■1970年■ 心身障害者福祉法
1949年に戦争で傷ついた傷痍者を救済する法律【身体障害者福祉法】を元に制定。
■1993年■ 障害者基本法
名称が【心身障害者福祉法】から変更され、現在の障害者支援体制の基本に。障害者施策の計画的な推進及び自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進することを目的に盛り込まれました。
■2004年■ 障害者基本法改正
法律の目的・障害者の定義・基本理念など。。大幅改正。第3条で障害を理由とする差別の禁止を追加し、第9条で国が障害者基本計画を策定し、都道府県・市町村(2007年度から)もそれぞれ障害者計画を策定することを義務付けました。
※しかし、DINFが発行している「ノーマライゼーション障害者の福祉6月号」によると、いろいろな課題が指摘されています。
(1)差別の禁止条項には「差別の定義」が必要である。 抽象的な理念のレベルで差別の禁止や防止を明記しても、それは「心がけ」の問題にとどまり、具体的権利侵害の事実を争点にする場合には直接的根拠にはなり得ない。もっとも重要な点は、裁判や準司法的苦情解 決機関等において、どういう事案が障害者の差別や人権侵害にあたるのかという解釈指針の根拠となる「差別の定義」が明記されていなければ実効性は期待できない。
(2)事業者の責務として、障害の特性やニーズを踏まえた適切な配慮を義務づける規定のあり方について実態に即した検討を行うこと。 「福祉に関する基本的施策」(第二章関係)では、従来と同様に、国及び地方公共団体に関しては「~を講じなければならない」、事業者には「~に努めなければな らない」と基本的に努力義務を課す規定にとどまっている。しかし、努力義務を課すだけでは、その結果、事業者等の実施者が責務として施策の目標を果たせな かった場合の罰則や具体的なペナルティ等もないことから、これまでと同様に実効性はほとんど期待できない。
(3)教育(第 十四条三項)においては、「交流及び共同学習を積極的に進める」になったが、この点は、与野党の修正協議でもっとも時間を費やしたといわれている。表記上 は「分離」と「統合」がどちらでも読めるように両論併記になっているが、現状の「特別支援教育」で言われていることは、普通学級に通っている障害児への支援は直接的には何も言及されていない。
発達障害者支援法
12月10日、制定。それまでの【障害者基本法】では、対象外とされていた発達障害者(注意欠陥多動性障害・学習障害・高機能自閉症・アスペルガー症候群などの知的障害や身体障害を伴わない障害を持つ人)を対象とした法律。発達障害の早期発見、教育と就労を支援を目的とした法律です。ようやく、それらの発達障害が生育環境やしつけ、本人の努力不足ではなく、先天的な障害と認められたのです。
「バリアフリー」や「ノーマライゼーション」という考え方に基づき、障害者が健常者と同じように自立して暮らせる社会を目指す目的で導入された法律ですが、非常に矛盾&問題の多い ”負の法律” として、日本全国での集団訴訟騒動にまで発展してしまいました。何が問題だったのかというと・・・
障害者自立支援法による改革のねらい |
矛盾&問題点 |
■障害者の福祉サービスを「一元化」 サービス提供主体を市町村に一元化。障害の種類(身体障害、知的障害、精神障害)にかかわらず障害者の自立支援を目的とした共通の福祉サービスは共通の制度により提供。) |
市町村によってサービスの違いがある現状では、一元化にするのは不可能。障害の種類によって、必要な支援も異なってくる。介護保険の制度を流用した障害の区分判定方法では、個々のニーズが考慮されていない。本当に困っている人へのサービスが提供できない。 |
■障害者がもっと「働ける社会」に 一般就労へ移行することを目的とした事業を創設するなど、働く意欲と能力のある障害者が企業等で働けるよう、福祉側から支援。 |
一般企業へ就職できるのはごくわずか。唯一の頼みの綱である職業安定所でさえ、多くの障害者は能力不足と判断され断られている現状で、一般就労を勧めることは不可能。 |
■増大する福祉サービス等の費用を皆で負担し支え合う仕組みの強化 (利用したサービスの量や所得に応じた「公平な負担」) 障害者が福祉サービス等を利用した場合、食費等の実費負担や利用したサービスの量等や所得に応じた公平な利用者負担を求める。この場合、適切な経過措置を設ける。 |
障害が重度になればなるほど、利用しなければいけないサービスが増え、支払い額も増える。多くの障害者は、働きたくても働く場所がない無収入。例え、働いていたとしても低所得。雇用対策をせず、この状態で「公平な負担」を要求するのはありえない矛盾。 |
➢ 通所施設での工賃が5000円のところ、利用費と給食費で15000円の負担となるため、退所したり、昼食代を削るために施設の給食を止め「100円バーガーとポテト、飲み物は公園の水道」という人も。
➢ 在宅支援サービスを利用しながら、1人で養護学校に通う2人の娘を育てていた父親が、ヘルパー料金と短期入所費の増額で、「生活が苦しい」「娘の将来が不安」と心中。
⇒中日新聞2006年12月6日朝刊 父と養護学校の娘2人心中
・・・などといった影響が。障害の重い人ほど負担増となり、生存権の侵害にあたるなどとして全国で違憲訴訟に。厚生労働省は、2010年1月、「障害者の尊厳を深く傷つけた」と反省を表明、2013年8月までに「自立支援法の廃止、新法律の制定」を確約、原告・弁護団と和解。ところが新しい法律案として示されたのは提言を尊重したものではなく、自立支援法の一部を見直し、法律名を「障害者自立支援法」から「障害者総合支援法」に変更されただけ。制度の本格的見直しは先送りにする法の改正案でしかないということから批判が相次ぎましたが、2013年4月から施行されました。この政府の行為を“詐欺”と呼ぶ人もいます。
⇒2/23 「障害者自立支援法」廃止をめぐる「ひどい話」-八王子市議会議員おぎた米蔵氏サイト
■2011年■障害者基本法改正
2006年12月に国連総会で採択された 障害者権利条約 の調印に向け、国内法整備の一環として改正されました。この改正で今までと異なることは、障害者と家族や支援者の思いをまとめて、改革を実現するために作った「障がい者制度改革推進会議」の存在です。24 名の構成員のうち 11 名、オブザーバー 2 名のうち 1 名が障害者なのです。国連の権利条約の合言葉「Nothing about us without us (私たち抜きに私たちのことを決めるな)」を意識してのことらしいですが、それまでの「障害者は、一般社会から保護される無力な存在。自分の人生の選択も決定も許されない。」という立場から脱却。健常者と同等の権利を持つ普通の市民として、共生できる社会の実現をめざそうと、障害者本人が意見を述べる機会を作った法制度改正には、大きな前進と期待されました。
障害者の意見の尊重、医療、介護、生活支援、年金、手当、住宅の確保、住宅の整備の促進、公共的施設のバリアフリー化などが規定されましたが、「この障害者を含めた新しい協議会は単なる ”形式” だけで、実際には、推進会議の意見がほとんど反映されなかったと見る専門家もいます。
実際に、前回の改正で課題となっていた「差別の定義」の具体化ですが・・・
「文部科学省 資料4-1:障害者基本法の一部を改正する法律について」の 内容を見る限り、具体化されているとは思えません。
(差別の禁止)
第四条 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
3 国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。
日本障害フォーラム(JDF)が発表した「障害者基本法の改正等についての見解」では・・・手話の言語性の確認・国際関係の条項・司法手続きにおける配慮、勧告や応答義務を盛り込んだ推進体制の規定など。。。は一定の評価できる点があるとしつつ、「JDFをはじめとする障害当事者、関係者の努力にもかかわらず、多くの課題が残された。」と、要請書を各政党宛や内閣府特命担当大臣宛に提出しています。 (下記、主な項目を記載)
障害者の定義
障害者を障害の社会モデルとしてとらえることを明確にするため、「改正案」の「~身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能の障害(以下、「障 害」と総称する)がある者であって、障害及び社会的障壁により(以下略)」を、「~身体障害、知的障害、精神障害その他の機能の障害(以下、「障害」と総
称する)がある者であって、障害及び社会的障壁との相互作用により(以下略)」という書きぶりにすること。
また、「継続的」という文言に「周期的または断続的」という文言を追加すること。理由は、「継続的に」という文言による継続要件により、今まで難病や精神障害など、心身の状態において一定ではなく、周期的または断続的に機能等の低下が起きる障害者が様々な制度から排除されてきた歴史があるためである。
地域社会における共生等
障害者が、障害のない人と平等に、どこで誰と生活するかを選択する権利を規定すること。「改正案」における「可能な限り」という文言は、障害のない人と平等にという意味で「障害者でないものと等しく」と変えること。
差別の禁止と合理的配慮の定義(改正・新設)
障害者権利条約の「障害に基づく差別」の定義(同第2条)に基づく差別の定義(差別の三類型の定義)、並びに、合理的配慮の定義を行うこと。
障害者権利条約の規定に基づいて、「合理的配慮を行わないこと」(障害者権利条約上の「合理的配慮の否定」)が差別であることを明記すること(新設)。
障害者基本法に関して
障害者権利条約第11条「危険な状況及び人道上の緊急事態」に基づき、障害者基本法において、(1)障害者の被害の実態の検証、(2)検証から見えてき た障害者が必要とする支援体制の確立、(3)復興において、障害者権利条約の理念に基づき、障害当事者の参画のもとでのインクルーシブ社会の「新生」など
に関する緊急事態における障害者の保護と安全の確保に関することについて、国会でも審議を求めるものである。
障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)施行。しかし、この法律も「虐待行為者の範囲があまりにも狭く、養護者と障害者施設及び企業などに限定。病院・学校・保育所は対象外」と、問題視されています。
■2012年■ 障害者総合支援法
【障害者自立支援法】から変更。障害者の日常生活及び社会生活を 総合的に支援するための法律。この変更過程にあたっては、2006年を参照。障害者の定義への難病等の追加や、2014年度から「障害程度区分」にかわって必要な 支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」を導入することなどが定められました。
■2013年■ 障害者差別解消法
「障害者基本法」の「差別の禁止」の基本原則を具体化した(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が成立。しかし、内閣府が国民向けに作成した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答」によると・・・
●Q2「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮」の具体的な内容については、今後、この法律の施
行(平成28年4月1日)までの間に、基本方針や対応要領、対応指針で、示していく
●Q5 合理的配慮に関しては、一律に義務とするのではなく行政機関などには率先した取り組
を行うべき主体として義務を課す一方で、民間事業者に関しては努力義務を課した上で、
対応指針によって自主的な取組を促す
●Q7 民間事業者などによる違反があった場合に、直ちに罰則を課すこととはしない
・・・と、差別の定義は具体化されず、先繰り課題になっています。
これでは、障害者のお店への入店拒否くらいの分かりやすい差別の防止にはなるでしょうが、「賃貸物件契約の拒否・資格・行動・交通の便・教育・社会的参加」の制限など。。。といったなかなか表面化しにくい差別では、障害でない別の理由を作って断られる可能性もあるので、どこまで規制できるのか疑問です。
障害者雇用促進法 改正
1960年制定された「身体障害者雇用促進法」が、1987年に(障害者の雇用の促進等に関する法律)と名称を変更。さまざまな改正がなされ、現在では、身体・知的障害者を対象とした、従業員の一定の割合(法定雇用率)を障害者とするよう企業に義務づけた法律に。法定雇用率に達しない企業は納付金が徴収されるほか、改善がみられない場合は 企業名が公表されます。今回の改正では、「2018年から精神障害者の雇用義務付け」「事業主に、雇用での障害者への差別を禁止」した他、「職場で支障なく働ける措置の義務化」などが定められました。
※しかし、関係者からは下記のような問題点を指摘されています。
➢法定雇用率は、企業側の論理で、働く障害者の観点からみれば、「雇用されること」以上に「働き続けること」が大切。(障害者の雇用/就労の場を「量」的に拡大するものであり、「質」に着目するものではない)
➢雇用率制度の根拠となる雇用義務の法的効力が曖昧。雇用率の算定には特例的な障害者のカウント方法や特例子会社制度等の影響が大きく、実雇用率が必ずしも雇用される障害者の実数を反映しているとはいえない。
■2014年■ 国連の障害者権利条約 (Convention on the Rights of PWDs)に 批准
2006年に国際連合で採択された「障害者の尊厳と権利を保障するための人権条約」。日本政府は、2007年に署名後、批准の準備を進めるものの、「自立支援法に対し、全国14地裁で違憲訴訟が提起」など、国内法が条約の求める水準以下だったため保留。7年の歳月を法整備に費やし、140カ国目にして批准に。しかし、あくまでも権利条約の最低基準を満たしただけで、内容合致までには多くの課題があります。例えば・・・国内法の対象障害者には「身体・知的・精神障害のみ」ですが、権利条約は「慢性疾患(がん・エイズ・てんかん・糖尿病などの難治性疾患)」も含まれている点。そして、権利条約は『人権の主体』として捉える障害者観も、国内法では未だに完全ではなく、『治療や保護の客体』として見ている点です。
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●合理的配慮(=障害者一人一人の必要を考えて、その状況に応じた変更や調整などを、お金や労力などの負担がかかりすぎない範囲で行うこと 「障害者権利条約」日本障害フォーラム発行)の概念区別が不明
2011年 改正障害者基本法で、日本で初めて「第4条に『差別の禁止』が新設され、合理的な配慮がされないことが差別につながる」と法律に明記。この“合理的配慮”実現のため制定された「障害者差別解消法」ですが、どこまでが合理的配慮でどこまでがそうでないのか全く不明。状況に応じた個別的な対応 であるところから、その「直接の」責任主体誰になるのか・・・がわからない。
●障害者差別違反があった場合でも、私法上の権利として法的救済を認める方法をとらない
行政主導の元、免責対象者(学校や職場など)に努力義務を課した上で、自主的な取組を促す。具体的な罰則・懲罰的損害賠償などの明記がない。
これは、口契約でも成立した「昔の誠実な日本人の気質」によるところなのか・・・
それとも、「国や行政の責任逃れ」を視野に入れてのことなのか・・・
「世界的にはかなり特異なシステム」で、なんとも 日本らしい曖昧さが多い グレーゾーン盛り沢山の法律 になっている感じです。
障害の定義が明記され、罰則が設けられた法律
■1960年代以前■ 障害者は、忘れ去られた偏見と虐待の被害者
当サイト「社会文化的影響による障害者観」の説明のように、あらゆる障害者は長い歴史において「社会から”無価値モノ”と断絶され、特別施設に隔離される」生活を余儀なくされてきました。障害者を”社会のお荷物・邪魔者”と見なしていたドイツ・ナチ政権下では、保健所・病院・学校に至るまで全ての機関で障害者を報告することを義務付け。親は、障害(例えどんなに障害が軽くても)のある子どもを特殊施設に入れることを強制。奴隷にされたり、餓死や毒、ガス室で処分されたり。。25万人以上の障害児/者が犠牲になりました。カナダでは、そこまでの大量殺人は行われなかったものの、特に知的障害者は隔離され、”人間以下”として扱われ、殺菌と称して施設送りになりました。このように「障害者にも人権がある」という認識さえもなく、無視されてきました。
■1970年代初め■ 差別への抵抗
人々は、日常生活に関連した社会的変革・法改正に対して、平等な主張と権限の模索をしはじめ、多くの団体が「性別・人種・国籍・障害に基づいた差別」が極めて重要な議論として、政府に提示。身体・精神を問わず、障害者への差別にフォーカスした団体は、”社会へ属する権利”を主張して、闘い始めました。
1973年、アメリカのオレゴン州の少女が「知恵遅れ」や「障害者」ではなく、「まず人間として 扱われたい(I want to treated like PEOPLE FIRST)」と主張。「自分たちの権利擁護を自分たちの力で行なっていこう。差別をはね返し、生きる地平を切り開こう。」を目的に、知的障害のある人の当事者団体「PEOPLE FIRST」が発足し、その運動がカナダをはじめ、世界に影響を及ぼしました。
1976年、障害のある人の当事者団体 The Coalition of Provincial Organizations of the Handicapped (COPOH) が設立。カナダの障害者人権運動に影響を与えて行きました。
現在の The Council of Canadians with Disabilities (CCD)。オンタリオ州によって始まったこの団体は、やがて、他州にも設立され、国家レベルで障害者に対する差別の禁止を訴えるまでになり、障害者の人権に関する州団体のサポート・連立を行っています。「雇用・交通・治療・自立した生活」などにフォーカスしたフォーラムも開催。毎回、政府関係者や業界関係者をはじめ、100人を超える障害を抱える当事者の参加があり、障害者の社会参加への障壁を訴えています。
■1977年■ Canadian Human Rights Act
連邦人権法 (Federal Human Rights Law)が制定。カナダで初めて、「人種・国籍・肌の色・宗教・性別(妊娠・出産にもとづく差別を含む)・年齢・家族の状況・性的指向(性的嗜好ではない)・婚姻の状況・身体障害/精神障害(容姿変形/損傷・アルコール依存・薬物依存を含む)・犯罪」に基づいた差別を禁止し、すべてのカナダ人は、法の元に平等に扱われることが認められました。(人権法制定当初は、身体障害者のみ対象でしたが、1985年には精神障害者も対象に追加されました。)
障害の定義は、広範に定められているのみ。個々の状況毎に具体的な定義を裁判所によって決めることで、より障害者の差別を守れる仕組みになっています。実際の障害と同様、知覚的な障害も含められています。
差別行為の申立がなされると、カナダ連邦政府によって設置された 「カナダ人権委員会 (Canadian Human Rights Commission (CHRC)」が「受理をするか否か」をまず検討。カナダ人権法の目的は、あくまでも差別した者を処罰することでなく、環境の改善なので、出来る限り和解の可能性を模索されますが、和解がどうしても不可だと判断されると、事案は調査へ移行。差別行為が存在したと委員会が認定した場合、調停または、カナダ人権審判所(Canadian Human Rights Tribunal)に送られます。結果、差別行為を正すための特別プログラムの施策や、逸失賃金/利益の補償、差別行為の結果受けた肉体的・精神的苦痛に対する損害賠償支払いが命じられます。
カナダ人権法と1995年制定の雇用衡平法(the Employment Equity Act)がきちんと施行されているか・・・を監督する立場にある団体。以下の5つの職務を有している。
● 雇用やサービスをめぐる差別に関連する苦情の解決
● 男女間の雇用の差別の苦情申立を調査
● 雇用者による雇用衡平法の遵守を監視
● 女性/先住民族/障害者/少数民族の人権保障のため、政策や立法を監視
● カナダ人権法の役割と人権委員会の活動について、市民の理解を促す広報活動
⇒[PDF]差別撤廃における国内人権機関の役割-山崎公士
しかし、1990年、Canadian Human Rights Act (full text) 第13条にある「電話の会話であっても悪意のあるメッセージだと判断された場合は、違反行為にあたる」という箇所が、「section 2 of the Canadian Charter of Rights and Freedoms表現の自由」の法律にふれるのではないか・・・と論争に。最高裁は、問題がないという結論を出したために、政治家をはじめ、さまざまな専門家から批判の的に発展。2008年、トロントに拠点を置く新聞社「National Post」は、人権委員会の事情聴取方法と過程の問題を下記のように指摘。
● 違反申し立てには、第三者機関の監視が介入していないため、
正式な苦情として処理されていない可能性がある
● 原告が時に人権委員会の調査ファイルにアクセスすることができ、
直接調査を遂行できる機会を与えられている
● 真実が答弁になっていない
●被告はいつも申立人と直接面会できるとは限らない
● 証拠の有効性の保証において、通常の基準が当てはまらない
●伝聞証拠は認められる
● 政府は原告に対して経済的な補助をするが、被告は自費負担である
・・・と、監督機関である人権委員会そのものが閉ざされた政府機関であるがために、実情が不透明で、カナダ政府にとって不利な結果にならないように、問題を曖昧に処理をされている疑いがあるとコメントするに至る。その後、いくつかの弁護士団は、人権委員会を擁護する意見が出されたが、人権委員の一人であるDean Steacyが、表現の自由について質問をされた際、「表現の自由はアメリカの価値観」と応答したことから、論議は加熱。
⇒ Canadian Human Rights Commission free speech controversies
⇒ "A bit late for introspection". National Post. June 19, 2008
1981年、国際連合が「国際障害者年 (The International Year of Disabled Persons)」に指定したことに合わせて、(Liberal・Conservative・New Democratic parties の国会議員からなる)カナダ連合政府の障害関連特別委員会が Obstacles Report (障害に関する報告書)を作成。障害者の日常生活における困難さを把握するために、カナダ全地域の障害者本人にアンケート調査を実施しました。体験談に基づいた結果から、障害者の社会参加や文化的交流の実現のため、130の改善策を提案。その提案は、人権法だけでなく、所得の安定・支援装置・交通・伝達などあらゆる角度から多岐に渡り、障害者本人の生の声を集約したこのObstacles Reportは、のちに「なぜ、障害者は人権法 the Charter of Rights and Freedoms に含められるべきなのか」を政府に示す、有力な情報になります。
■1982年■ Canadian Charter of Rights and Freedoms
カナダのすべての司法権の中で、最も高い抑止力がある憲法「権利と自由のカナダ憲章」が制定。憲法に障害者への差別を記載したのは、憲法国家ではカナダが先駆けとなりました。一貫性がない特殊なケースであっても、あらゆる連邦・州の条項に代わって取締る効力があります。カナダ人権法と同様、障害の定義は、柔軟性を持たせた広範に設定。「人種・国籍・肌の色・宗教・性別・年齢・身体障害/精神障害」を対象とした差別を禁止、15セクションに分けられた平等の権利保障を定められています。損害賠償支払いなどの罰則規定があります。
■1986年■ The Employment Equity Act (EEA)
雇用状況での障害者の平等を保障する連邦の法律「雇用均等法」が制定。「障害者が利用し易い街作り」をモットーに、飛行機・鉄道などの交通機関から、公共の建物・賃貸物件・個人宅にいたるまでの改修費を国が助成。職場でのバリアフリー化運動も始まりました。「女性・先住民・障害者(容姿変形/損傷・アルコール依存・薬物依存を含む)」が対象されていますが、先述の Canadian Human Rights Act と Canadian Charter of Rights and Freedoms と異なっているのは、障害者について、セクション3で下記のように詳細に定義している点です。
a)consider themselves to be disadvantaged in employment by reason of that impairment, or
b)believe that a [sic] employer or potential employer is likely to consider them to be disadvantaged in employment by reason of that impairment, and includes persons whose functional limitations owing to their impairment have been accommodated in their current job or workplace.
要約すると・・・長期 または 再発性の恐れがある身体・知的・感覚・精神・学習障害者で、なおかつ、a)その障害が雇用において不利だと思う者 あるいは、 b)雇用主は障害の不利を認知しているものの、職場において受け入れてくれている者
■2010年■ Ratification of UN Convention on the Rights of Persons
with Disabilities (CRPD)
ブリティッシュ コロンビア州のバンクーバーでパラリンピックが開催された後、11月に国連の「障害者の権利条約」に批准。カナダは条約の草案作りから積極的に関与し、署名はしていたものの、それまで批准はまだされていませんでした。条約締結により、国連が定める国際的な基準に沿うことが要求されるので、今後更なる、障害者環境の改善が期待されています。
オンタリオ州の障害者人権法 第一章にある言葉
“There are only two kinds of people in society:
those who have a disability now,
and people with disabilities in waiting
—i.e. those who will get one later. “
社会には、二通りの人間がいる。
今現在、障害を負っている人。
そして、将来、障害を負うであろう人。
この言葉が表わしているように、カナダでは障害者を法律的に隔離することなく、あくまでも一般の人権法の一部として扱っています。日本のような曖昧さがない、障害の定義がきちんとしている、罰則のある人権法が障害者の権利を守っているのは確かですが、雇用の平等という面においては、「労働組合」の存在の大きさも無視できません。
連邦・州政府との連携で設立された「 The Social Union Framework Agreement」は、カナダのソーシャルサービスシステムの改革・更新を目指し、障害者の能力を最大限に引き出して、社会に参加する機会を出来る限り増やそうという試みがされています。
このようなさまざまな取り組みにより、障害者が虐げられていた時代よりは、日本もカナダも遥かに障害者の人権は守られるようになりましたが、それでも、健常者との格差は なかなか縮まりません。差別に対する法整備がされているカナダにおいても、不平等な処遇への対応には、更なる課題があるようです。
【関連/引用/参考サイト】
・[PDF]障害者政策の現状と課題 - 立命館大学
・障害者基本法の抜本改正についてのJDF統一要求書-日本障害フォーラム
・社会福祉の制度 - 障害児・者福祉について -Japan National Council of Social Welfare
・発達障害者支援法の理念と運用の状況・問題点- 日本小児神経学会
・外務省: 障害当事者の声が実を結ぶとき~障害者権利条約の障害者権利条約の締結
・[PDF]障害者自立支援法の サービスの利用について
・政府は「障害者自立支援法廃止」の約束を完全に破ろうとしています-Afternoon Cafe
・[PDF]「障害者自立支援法」の背景と今後の動向
・【障害者支援法】 延命を模索? 民主政権、「廃止」決定したのに-来栖宥子★午後のアダージォ
・障害者虐待防止センターをどう作り活かすか〈Q&A編〉-PandA-J研究所
・[PDF]【第20回】障害者虐待防止法の理解とこれからの課題-社会福祉法人昴
・[PDF]我が国における最近の障害者施策とその展望-慶應義塾大学 内藤恵研究会
・平成20年度障害者の社会参加推進等に関する国際比較調査-内閣府
・外務省: 障害当事者の声が実を結ぶとき~障害者権利条約の締結
・[PDF]ディーセント・ワークへの障害者の権利 - International Labour Organization
・Milestones of Human Rights in Canada | Canadian Human Rights Commission
・View the printer-friendly version of the timeline - The Museum of disABILITY History
・Disability Rights Timeline - Instructional Support Center
・The Role of Organizations of Disabled People-The Independent Living Institute (ILI)
・History | Council of Canadians with Disabilities
・A brief history of Disability through the ages-Timeline of Disability
・Disability Rights in Canada: A Virtual Museum
・Preparing for the Review of the Employment Equity Act-Public Service Commission of Canada
・[DOC]The Disability Rights Movement, The Canadian Experie-Sally M. Rogow
・[PDF]people with disabilities significant historical events - Regi
・精神障害のある人への生活支援と『障害者の権利条約』 - 日本精神保健福祉士協会
・[PDF]欧米諸国における障害者の 雇用政策の動向 - 障害者職業総合センター
・Human Rights and Disabilities - Canadian Heritage