② 特殊教育療法
Educational Therapies
■応用行動分析/ ロヴァース療法 ABA=Applied Behavior Analysis
日常における問題場面の解決に、人間や動物などの行動を分析する行動学理論を基にした方法です。
行動分析学は、イワン・P・パブロフやエドワード・L・ソーンダイクの見出した動物行動の法則や、ワトソンの主張した行動主義‐「心理学の対象は観察可能な行動であり、全ての行動は環境事象(刺激)によって制御される」-などを基に、バラス・スキナー(Burrhus Frederick
Skinner)が新行動主義心理学をさらに改革し、体系的に学問づけた事が起源とされています。歴史的には、フロイトやユングらの精神分析学に対抗する形で発展してきました。
その後、1987年ロサンゼルス・カリフォルニア大学(UCLA)のロヴァース博士(Dr. O.I. Lovaas)らの研究チームによって、「幼児自閉症プロジェクト」が実行され、開発が進みました。生後40カ月以内の自閉症児19人からなる一方のグループにABAに基づく週40時間の1対1の療育を2年間行った結果、47%にあたる9人の子供たちのIQは2年間で平均約20%向上、付き添いなしで普通学級に進学できるという進歩を達成しました。8人は、言語面で特殊な教育を行う失語症クラスに進み、残り2名は知的障害児の特殊教育のクラスに入りました。
2005年には、ウィスコンシン州の研究グループが、ロヴァース博士の研究をモデルにして、2~3歳半の自閉症児23人(IQ35-75)に平均30~40時間のABA家庭療育を2年以上実施したところ、平均IQが51から76に増加し、11人(48%)が知的に正常域(IQ85以上)に達しました。彼らは「およそ平均的な学業成績を上げ、流暢に話し、友達と普通に遊んでいる」とのことです。
1999年、ニューヨーク州保健省が発行した自閉症幼児のための診断・治療ガイドラインでは、週20時間以上のABA療育が効果を実証されている方法として推奨され、現在、ニューヨーク州をはじめ、カリフォルニア州、カナダ・オンタリオ州などでは、ABA早期集中療育が公費で実施されています。「自閉症に有効な治療法はない」というこれまでの常識は、アメリカではすでに過去のものとなりつつあります。
ABAを研究・開発しているアメリカのロヴァース研究所は、ABAは、年齢に関係なく何らかの効果を生み出すとしていますが、2歳~8歳の間に開始されるケースが最も効果が出で、12歳以降は別種のサービスに移行した方がよいとしています。ABAは、「家庭で親が行い、セラピストが週に1、2回(直接教える時間は週に6~12時間)自閉症児の家庭に行って定期的に状況をチェックし、次に重点を置くべき課題を親に指示する」という方式で行われます。「スキルを獲得するためのエクササイズ」に費やす時間は、3~5分間。次に、同じく3~5分間、自由時間を与え、それが終わるとまた3~5分間エクササイズを行います。これを繰り返した後に、1時間ごとに10~15分間の休憩時間を与え、トータルで2~3時間を1セッションとします。自由時間・休憩時間には学習したことの「赤のブロックの上に載っけたのは何色のブロックなの?」などと言葉をかけます。週に40時間のペースで、少なくとも2年間は毎日継続し、家庭療育します。
ABAは、「セラピストと子どもが1対1で学習のための小机などの特別なスペースを用い、セッションという特別な時間の設定のもとに、プログラムが事前に決められたドリルなどを使う」DTT(ディスクリート・トライアル・トレーニング)という方法で行います。
通常の心理学で言われるような「不満」や「喜び」といった抽象的な概念は扱わず、観察可能な行動を対象として扱います。行動原理に基づき、環境事象を重視した観点を持っているため、「問題とされる行動の測定や介入手続きなどが明確になる」といった特徴があります。
人間の行動は、「A 先行刺激」・「B
行動」・「C 結果」という3つの要素から成り立っています。子どもが「B 行動」をしたときに、「C 結果」がその子どもにとって良いものであればその行動は強化され、嫌なものであればその行動は減少します。DTTでは、AとCの部分を変化させることによって、不適応行動を望ましい行動へと変えていきます。
主に発達障害などの領域で成果をあげていますが、教育、産業、スポーツ、医療・介護などの分野でも活用され、実績を得ている手法です。
【関連/引用/参考サイト】
・認定行動分析士 田中桜子 ABAやってみよう!
・[PDF] 学校支援の行動分析的アプローチの動向
・ABA(応用行動分析療法)とは? | チルドレン・センター
・[PDF] 応用行動分析学で作業療法が変わる - 行動リハビリテーション
■TEACCHプログラム TEACCH Program
TEACCH はTreatment and Education of Autistic and related Communication handicapped CHildren(and adults)の略で、日本語では「自閉症及び関連障害、関連領域にコミュニケーションの障害をもつ子ども(と成人)の治療と教育」という意味。
1966年アメリカ・ノースカロライナ大学のE・ショプラー教授によって紹介。チャペルヒルのノースカロライナ大学医学部精神科を本部に、1972年州法成立によって本格的に活動が開始されて以来、自閉症のための全州規模のトータルプログラムとして実施されています。
TEACCH は、自閉症を「治す」ためのものではありません。「自閉症は生涯にわたる障害」と考え、大人になったときに最大限の「自立性」を獲得できるように、コミュニティに基盤をおいた生涯にわたる援助をします。治癒することはないと考えているので、幼児期に集中的に療育するだけではなく、診断・評価に始まり、家庭療育への支援、教育現場へのサポート(教師のトレーニングやコンサルテーション)、居住プログラムや職業プログラムへの援助・・・と、乳幼児期から成人期までの一貫した自閉症児の生涯にわたる個別支援プログラムが組まれます。このプログラムの基、ノースカロライナ州の自閉症者の9割以上が自宅やグループホームなどで自立した生活を送っているといわれています。現在では、世界各国でこのTEACCHプログラムが導入され、日本でも急速に広まってきています。
1960年代アメリカでは、「フロイドの理論に基づいて親に対して治療を行う精神分析」や「自閉症の子どもは発達障害だから、スキルを教えよう、問題行動をなくして何とか変えようとする行動療法」が盛んでしたが、ショプラーは、「子どもに新しいスキルを教えるより、子どもの弱点を補うように環境を整えることが大切だ」と提唱しました。「子供はそのままでいいのか?頑張れば自閉症の子どもはもっと変わるかもしれないのに、子どもに対して期待度が低すぎるのでは?」という批判もありましたが、「子ども自身を変えることよりも、環境を変えることによって結果として問題行動が減り、子どもの発達が促される」と考えたのです。
着替えや入浴などの家庭での生活習慣から、勉強や作業、趣味や余暇活動に至るまで、こどもの適応性を上げる事によって様々な技能を向上させ、教育的な援助をし、社会での適応を目指していきます。その結果、生活の困難を克服し安定して暮らせるような生活術を身に付けていきます。
どのような生活術かと言うと・・・
・コミュニケーション…言葉の習得が困難な場合、カードや身振りで意思表示する
方法で覚えていく
・時間…スケジュールや時計の見方、課題の所要時間の理解。時間の感覚を身に付ける
・遊び…自由時間を上手く過ごす。余暇活動の喜びを見つける
・日常生活…着替えやトイレ、入浴など、身の回りの事が一人でできるように練習する
・勉強・作業…将来の仕事に結びつくような作業を覚え、言葉や計算を学ぶ
・社会性…場面に応じた行動を可能にし、外出先での不適応をなくしていく
行動療法のように「行動」に直接働きかけるのではなく、学習経験が育っていく「基盤」への働きかけをしていきます。TEACCHの基本的な考え方「弱点を認めた上で、現在のスキルを強調すること」を基本に、ある行動を直接教えるということよりも、むしろその行動に必要な前提スキルの方を評価していくのです。例えば・・・「10年後にしゃべるかもしれないから言葉を教えよう、ではなく、現在ジャスチャーができるならジェスチャーでコミュニケーションがとりましょう。ハンドリング(クレーン現象)が主なコミュニケーション手段だったら、これを大事にしましょう。しゃべれなくても文字が読めるならば文字から教えていこう。」・・・そういう発想です。期待される社会的・自立的スキルを教え、外見上ノーマルに見える行動様式を身につけさせるという方向性ではなく、その人にとって意味のある経験を広げることをめざしている訳なのです。
問題行動に対しても、それに直接働きかけることよりも、その背景にある理由(不安、身体痛、課題の難しさ、予想できない変化、退屈さなど)を周囲が理解する努力をするとともに、それを又、本人が周囲に伝える事ができるようになるようにという事に重きを置きます。危害が及ぶような場合や、その行動のために上記の方針が実行できないような場合には、直接的な行動療法(Direct Behavior Modification)を使う場合もあります。
2006年7月にショプラーが亡くなってから、TEACCH部が大きな転機を迎えようとしています。2009年4月、TEACCH部は、ノースカロライナ大学医学部精神科ではなく、新しくキャンパスにできたCIDD(Carolina Institute of Divelopmental Disorders)という機関の一部として位置づけられました。8~9月にかけて、突然、長年の運営スタッフの半分を解雇、TEACCH部に使われていた予算も他の機関に回すようになり、35年近く続いてきた自閉症最前線情報の集約するメイカンファレンスも中止されました。その背景には、アメリカ全土の平均(6.7%)よりも高く、1983年10月以来の歴史的なノースカロライナ州の失業率(7.9%)があるようです。
福祉は政治の影響を受けやすく、国が財政難になると、高コストなサービスは永続的な制度として期待しづらいのが現状です。TEACCHがどうなっていくのか、見守っていきたいと思います。
【関連/引用/参考サイト】
・TEACCH の今日的課題-内山登紀夫(よこはま発達クリニック・大妻女子大学)
・Welcome to the University of North Carolina TEACCH
■ソーシャル・ストーリー Social Story
キャロル・グレイ女史によって開発されたソーシャル・ストーリーは、今多くの発達障害児、特に高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもたちに多く使われるようになってくる一方で、形だけを真似て、こども達を大人の側の都合のいいように動かそうとするために導入することのマイナス面も指摘されている。本来であれば、専門のワークショップを受講してから取り組むのが理想だが、困っている子どもたちを前にして、助けてあげたいとき、少なくとも失敗しないようにこれだけは守ってほしいという、書き方と文例。全部で100個近い文例があるので、自分で一から作るのに慣れない間は、これらをヒントにして一部だけ我が子に合わせる使い方もできるかも。
社会の暗黙のルールや他者の考え方といった「目にみえないこと」をストーリーで「視覚化」することによって、自閉症児者が理解しやすく、事前にリハーサルできるようにするという療法です。
【関連/引用/参考サイト】
・ソーシャル・ストーリー・ブック - お父さんの[そらまめ式]自閉症療育
・自閉症者に対するコミック会話、ソーシャルストーリーを考える
・[PDF]Title 自閉症スペクトラム障害児に対するソーシャル・ストー リーの効果-東京学芸大学