【自閉症の原因 Risk Factors

 

④ ウワサの要因          
  Controversial Factors
     

■MMRワクチン MMR Vaccine

Image:by PATH global health CC BY-SA 2.1 JP
Image:by PATH global health CC BY-SA 2.1 JP

 

MMRワクチンとは、「麻疹(measles)、流行性耳下腺炎(おたふく風邪mumps)、風疹(rubella)の頭文字を取った」新三種混合ワクチンです。日本では、1988年から実施されていましたが、ムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎発生率が高い事が問題となって1993年中止され、現在は個別接種、もしくは「風疹・麻疹混合ワクチン」の接種で対応しています。

 

イギリスで1998年にトップクラスの権威のある医学誌「The Lancet(ランセット)」誌でMMRワクチンが自閉症の発症に関連している可能性を指摘するAndrewWakefield(ウェークフィールド)博士の論文が発表され、メディアが大々的に報道したのをきっかけに、論争が始まりました。

 

論文は、「12人のMMRワクチンの接種を受けた子供のうち9人が、接種後1〜14日以内に自閉症の症状を発症した為、ワクチンによって腸に炎症が生じ、そこから有害たんぱく質が血中を通って脳に流れこみ、神経細胞に損傷を与えて自閉症を引き起こすのではないか・・と考えたのです。

 

この論文を機に、「自閉症の増加は予防接種のせいだ」という世論が2010年までの12年間に渡って繰り広げられ、自閉症児の親はワクチン接種を拒否、麻疹の罹患率は上昇。イギリスやアメリカを中心に、国を相手取った損害賠償訴訟が多発しました。

 

しかし、この説には当初から懐疑的な意見が多く、科学的な反証も複数発表されました。

 

MMRが停止された日本では、「子どもの自閉症発症率」が変わっていない事などから、自閉症の発症とMMRワクチンの接種との間には関連性は存在しない、という事も発表されていますが、なぜ「自閉症・自閉症スペクトラム症候群」が発症するのか、という部分の理解が進んでいない為、疑念が解消される研究が待たれています。

そして、イギリスではNHS Information CentreNHS情報センター)が国内の自閉症の症状を持っている成人集団に対して調査が行われ、自閉症症状が存在している人達の割合が「人口1/1001%(男性が1.8%、女性が0.2%)」という事を発見しました。その割合は、子ども達にみられる自閉症の割合と同一である事から、「MMRが自閉症に関するなんらかの責任を負っているならば、 MMRが利用可能になった1990年代初期以降に、子ども達の間の自閉症の割合がより高くなっているはずではないか」と、疑いをもったのです。その結果、「MMRと自閉症の発症の関連について信頼できる証拠は存在していない」との報告をしました。

 

多くの研究者がこの論文研究に疑問を呈し、ウェークフィールドには長年倫理規定違反の疑惑がついて回っていました。イギリス・サンデー・タイムズ紙は「2004年、被験者のうち数人は、ワクチン製造メーカーを相手取った裁判の担当弁護士の依頼人の子供だった」と指摘。さらに、裁判絡みの研究に資金援助をする公的機関リーガル・エイド・ボードから、ウェークフィールドが5万5000ポンドを受け取っていたことも明らかにしました。共同研究者13人のうち10人はすでに同年に、ワクチンと自閉症の関連性を否定、主要執筆者の医師ウェークフィールド博士は撤回を拒否してきましたが、ついに2010年1月にはイギリスの医事委員会が、ウェークフィールド博士の研究手続きや過程が極めてずさんで不誠実だったとして医療倫理ガイドライン違反との裁定を下し、2月にはランセット誌はこの悪名高きこの論文を正式に撤回、科学界から完全抹消されました。更に5月には、ウェークフィールド博士はイギリスでの医師登録を末梢されました。

 

しかし、この判断は、あくまでも倫理規定違反によるもので、長年指摘されてきた科学的な間違いのためではなかったため、研究者が罪に問われることはありませんでした。自閉症MMR原因説は科学的な仮説としてはもはや葬り去られましたが、ワクチン反対を唱える運動家や訴訟関係者などを中心に「信仰」は続いており、論文抹消やその著者の処分はイギリス政府や製薬会社などが結託した陰謀で不当なものだなどと主張。一般市民のMMRワクチンへの不安も消えておらず、イギリスにおける接種率は落ち込んだままで、麻疹による死亡者も出ており、公衆衛生上の大きな問題となっています(ただし、それでもワクチン後進国である日本の麻疹ワクチン接種率よりは高いそう)。

 

そんな折、20108月イギリスでMMRワクチン接種後に障害を負った少年(母親が反MMRワクチンの運動家)が、裁判で勝訴して補償金を受け取ったというニュースがあり、再び「自閉症MMR原因説」が持ち上がりましたが、BBC Newsによると・・・

 

MMR campaigner from Warrington wins 90,000 payoutBBC News)

WarringtonMMR運動家、£90,000支払いを獲得

  

Robert has frequent epileptic fits, is unable to talk, stand unaided or feed himself, but is not autistic.

(ロバートはてんかん発作を頻発し、話しや独立歩行、一人で食べることもできないが、自閉的ではない。)

It said the ruling had no relevance to the question of a link between the vaccine and autism.

(判決ではワクチンと自閉症の関連の問題には関係がないと述べられた。)

 

・・・と、今回の判決は自閉症とはまったく無関係のものとして下され、保健省スポークスマンはMMRワクチンが安全であることを強調しました。

 

さらに、ガーディアンは麻疹の合併症である急性脳症を発症させ、神経学的後遺症(知能障害、運動障害、てんかん)を残したのではないか・・・と指摘しています。

 

このイギリスでの記事MMR – the vaccine damage myth that will not die(guardian.co.uk) 死なないワクチン損害神話-のように、長い間、ワクチン接種での急性脳症は想定外と考えられてきたため、「やはりMMRワクチンは有害だ。」との見解をする反ワクチン運動家がいると思いますが、一般的にワクチン摂取には当然リスクが伴います。安全性を主張する科学者もゼロリスクだと主張しているのではなく、そのリスクよりもワクチン摂取によって麻疹感染拡大を防止できるベネフィットの方がずっと大きいと考えているのです。(勿論、不運にもワクチンにより重大な副作用の出た少数の人に対しては相応の補償をするということが前提ですが・・・)

 

2010年現在では、自閉症とMMRワクチンは無関係とされ、報道によれば、訴訟関係者や反ワクチン運動家間での強力な「*確証バイアス」が働いているとの見方もされています。

 

*確証バイアス(ウィキペディア)--確証バイアスとは社会心理学における用語で、個人の先入観に基づいて

 他者を観察し、自分に都合のいい情報だけを集めて、それにより自己の先入観を補強するという現象

 

 

【関連/引用/参考サイト】

MMRワクチン自閉症の関連を主張したランセット論文が完全に消えました-お父さんの[そらまめ式]自閉症療育

自閉症水銀 -TBS報道特集を斬る-

発達障害児の療育ブログ 「自閉症ではなかった!」という報道に-発達障害児の療育ブログ

予防接種拒否、米国で増加 国際ニュース:AFPBB News

 

 

 

■ 刷り込み Imprinting

刷り込みの例(生後直後に見た犬を母親と思うひよこ)Image:Sunny Skyz
刷り込みの例(生後直後に見た犬を母親と思うひよこ)Image:Sunny Skyz

 

「自閉症の発症は、鳥類が行うような刷り込み行為(生まれて母を認識し信頼関係が生まれる行為)を出産時に妨げられる(新生児は新生児室に入り、母親と離される)ことで、母子の信頼と愛が築けなくなることが関係している」という、白石 勧氏の自閉症の新しい理論です。

 

実際に鳥の刷り込みを妨げたところ、鳥にも自閉症に似た症状が見られるそうで、「自閉症の症状は、恐怖症」や「遺伝子の要因は自閉症になりやすいという傾向があるのみであり、有力とされる遺伝的欠陥説は疑わしい。(一卵性双生児の片方だけ自閉症になるケースが存在するのがその証拠)」と主張されています。

 

しかし、この論理を裏付けする研究成果がないらしいので、あくまでも仮説ですが、ちょっと面白いので、このサイトを覗いてみてください。

 

 

【関連/引用/参考サイト】

自閉症の原因と予防-白石 勧