⑥ アニマル療法
AAT= Animal Assisted Therapies
「自閉症」をはじめとした発達障害、不登校や引きこもりといった問題、重い病気を抱えた方々など。。。老若男女問わず、コミュニケーション療育の一環として知られ、馬やイルカなど、情緒水準が高度と言われる哺乳類との交流を通じて、他者を信頼できるようになると言われています。
海外のアニマルセラピーは日本より進んでいて、規模も大きく、研究も盛んに行われています。中でもアメリカにあるグリーンチムニーズという施設は、有名で、世界中からたくさんの人が視察に来るほどです。アメリカ(ボストン大学、コロラド大学など)、イギリス、オランダ(ユトリヒト大学臨床心理学部)、オーストリア(ウィーン大学心理学部)、イタリア(ミラノ大学小児科病院)、オーストラリア(クイーンズランド大学)が、自閉症の治療教育に動物介在を取り入れています。スウェーデンではそのため、ガイドドッグを政府が予算を出して育成しているとのことです。
医師やカウンセラーだけでなく栄養士やさまざまな種類の専門家がしっかりと子どもと動物をサポートするという体制が整っています。(一般人・高齢者・障害者すべてに対して)精神科系の薬物投与が激減したなどの治療効果が正式に医学の中で認められているので、保険対象になっているところもあります。
【関連/引用/参考サイト】
・ヒーリング 癒しガイド
■イルカ療法 Dolphin Therapy
人間がイルカと一緒に泳ぐこと (dolphin swim) により自閉症やうつ病などに効果があるとされています。人は水の中で過ごすと、癒しの効果も感じられ、イルカ・セラピーの効果プラス"アクア・セラピー"の効果も同時に得られます。長年イルカ・セラピーを研究してきた、ベッツィ・A・スミス氏は、 「イルカと一緒に泳ぐと自閉症児の問題行動が改善される」という実験結果を発表しています。
具体的な効果は・・・
・アイコンタクトの回数と発生頻度が増える
・個人空間が狭まり、人を近づけるようになる
・注意持続時間が長くなる
・個々の問題行動が減る
・睡眠障害の改善
「なぜ、これらの効果があるのか・・・?」は不明ですが、数多くの研究の中で言われているのは、超音波です。
自然の中の森や滝、波の音から発される人間の耳には聞こない超音波に癒され、人間がリラックス時に出るα波の増加を促します。イルカの超音波もそれと同じ効果があるそうです。また、このイルカの持つ超音波には、物を通り抜ける性質があり、壁の向こうの見えないものが見えたり、人間の脈拍、血圧や人が緊張したり、海を恐がっていることを見分けたりする能力もあると言われています。
この、不思議な能力を利用して仲間とコミュニケーションをとっていて、相手が傷ついていると察すると、かばったりする優しい性質があり、人間の中から病人を選別でき、その病人を特別扱いする習性があります。右半身が麻痺している人が海に入れば、イルカは必ず不自由な右側を支えるような位置にまわってきて泳ぐらしいです。
自閉症児が泳いでいる場合は、健常児と自閉症児を見分け、自発的に自閉症児と多く接触しようとしているみたいです。イルカと一緒に泳ぐ事によって、「自分はイルカに特別扱いされた」と感じ、自分の存在を認めてくれた喜びと自信をも与えてくれます。この療法は、精神障害を持った人に対する治療法としても注目されはじめており、最近ではガンや交通事故の後遺症など、肉体的な病気に関しても効果が期待できるとして、さかんに研究されています。
【関連/引用/参考サイト】
・[PDF]自閉症児とイルカ介在療法 - 山口大学
・[PDF]自閉症児を対象としたイルカ介在活動の効果 - 大阪教育大学
・Dolphin assisted therapy offers a controversial treatment for disabled children-CTV
■乗馬療法 Horse Therapy
1875年にパリで乗馬が麻痺を伴う神経障害にきわめて有効な療法であると発見されて以来、アメリカでは約50年前より研究が進み、ドイツでは、乗馬療法士という国家資格があるほど医療(乗馬療法)として認められ、シンガポールでも、10~12歳の情緒障害を持った児童を対象に、ポニーを使った乗馬療法プログラムRide Kidsが実施されているなど。。。現在ではきちとした治療システムとなっています。
馬に乗った時の揺れやリズムは、人の歩行運動に近いと言われており、馬の動きに合わせることで自然にバランス感覚が養われます。筋肉の衰えが著しい車椅子の生活を送る人は、普段使わない筋肉を使うことで、特に下半身の筋力が衰えるのを防ぐ効果があります。脳性麻痺の人は、内転筋(内股の筋肉)の緊張が強く、乗馬開始当初は馬に乗る股さえも開かなかったのに、回を重ねる毎に股が開くようになり、内転筋の緊張が緩和されました。それとともに無表情だった顔に明るい笑顔を見せるようになり、歩く練習も自主的に始めたという報告もあります。脳に良い刺激が与えられ、馬のあたたかさは、足や腰の筋肉をほぐすだけでなく、精神を安定させる作用があるので、自閉症の症状に高い改善がみられるとも言われています。
【関連/引用/参考サイト】
・アニマルセラピー関連(乗馬療法のニュース)-お父さんの[そらまめ式]自閉症療育
・健康コラム-Le Journal Eventuel de Bon Vivant
■犬療法 Dog Therapy
高齢者や障害者にとってセラピー・ドッグとの触れ合いが心身に良い影響を及ぼすことは、今や常識ですが、精神面・肉体面でどのような影響を及ぼしているのかについての科学的な研究は、世界的に進められていますが、まだ発展途上にあります。今回、初めて生理学的なアプローチからの研究がカナダのモントリオール大学が中心となって進められ、科学専門誌『Psychoneuroendocrinology』に発表されました。
その研究では、自閉症の子どもたちの唾液中に含まれるコルチゾールと呼ばれるホルモン濃度を測定することで、サービス・ドッグから受ける生理学的影響を調査しました。コルチゾールは副腎皮質ホルモンのひとつで、ストレス反応と大きく関係していると言われています。一般に、ストレスを強く感じるとコルチゾールが多く分泌されることが知られています。
研究者らは、ストレスレベルを評価するために、起床後30分程度でコルチゾールの分泌量が急上昇する、起床時コルチゾール反応(Cortisol Awakening Response: CAR)を指標とし、42人の自閉症児を対象として CAR を測定しました。CAR の測定は、サービス・ドッグの家庭への導入前、導入中、そしてサービス・ドッグを家庭から取り去った後の3つの状況で行われました。
その結果、サービス・ドッグの導入前には、CAR の値が58%上昇していたのに対し、導入中にはそれが10%にまで減少しました。さらに、一時的にサービス・ドッグを取り去った後の値は、再び48%の上昇を見せ、サービス・ドッグの存在が自閉症児のストレスの軽減に役立っていることが明示されました。
ストレスレベルの測定と並行し、両親による子どもの問題とされる行動に関してのアンケート調査が行われました。すると、サービス・ドッグ導入前には平均スコアが33だったものが、導入中のスコアは25にまで減少しました。つまり、自閉症児のストレスレベルが減少することと日常生活での行動改善とが関連性を持つことが示されたのです。
あるイヌの訓練法を書いた本に、こんな話がありました。
イヌを野原へ連れて行って、手綱をはずして、ボール遊びをした。しばらく遊んだ後、飼い主はそろそろ帰ろうと思い、イヌを呼んだ。ところが、イヌは遊び足りないのか、呼んでもなかなか来ない。「コイ」という号令は知っているらしく手元までは来るけど、ぎりぎりのところでスルッと逃げてしまう。首輪をつかまれたが最後、引き綱をつけられると知っているのだ。
そんなことを何度か繰り返した後、ようやく、気のすんだイヌが帰ってきたころにはすっかり腹がたっていて、「なぜすぐに来なかった!」と叱りつけてしまう。ところがイヌは、「来るのが遅かったから叱られた」とは考えない。「せっかく来たのに、来たとたんに叱られた」と考える。怖い人には近づきたくないから、なおさら呼んでも来ないイヌになってしまう。
またある日は、帰宅するとイヌがベッドルームにあったクッションをびりびりに破いて、いたずらをした。飼い主は、カーッとなって、リビングにイヌを呼びつけ、叱り付けた。でもこれでは、叱られたのは「いたずらの精」なのか「呼ばれて来たのが悪い」のかが伝わらない。叱る必要が生じた時は、自分からイヌのところへ出向いていって叱らなくてはならない。
これらのイヌの話は、「一を聞いたら一を理解する」のが精一杯。沢山の条件があると、叱られても、「どのことについて叱られた」のか、よくわからなくなってしまうこと・・・自閉症児の行動のパターンとよく似ています。
上記の締付け機を発明したコロラド州立大学准教授テンプル・グランディン(Temple Grandin)は、後の著作(『動物感覚』)で、「自閉症は、動物と人間の中間にある駅のようなものだ」と言っていて、「動物」と「人間」の中間にいる自閉症児を表現しています。人間も動物であり、連続している生命体だと言えるのです。
他人とコミュニケーションを取ることに恐怖を感じたり、完全に外の世界を遮断してしまっている自閉症の子供たちにとって、犬が最初の友だちになることは大きな一歩。両親以外の対象に、はじめて心を開いたという子も決して少なくはないでしょう。いきなり叫んだり泣き出したりする子供たちを、決して諦めることなく側にいてくれる犬たち。交通量のある道を歩いているときにいきなり子供が飛び出すことがあっても、安全のためにアシスト犬はその場から動かないという判断をくだします。このとき、犬のハーネスと子供はリードでしっかりと繋がれています。スーパーマーケットでかんしゃくを起こしてしまうとき、犬はそばに寝そべって優しく顔をなめて落ち着かせようとします。
それが自閉症児アシスト犬です。子供たちの勇気を助け、自信をもってもらい、外の世界に導いてくれる存在です。犬たちが自閉症児に与えている精神的な向上は個人差こそあれ計り知れないものだと想像します。まだまだ国内に頭数は少ないものの、自閉症アシスト犬を迎えた家庭は口を揃えて子供たちの成長に多大な影響を与えていることを認めているようです。
しかし、『我々に職場を!自閉症児アシスト犬のジレンマ』にも掲載されていますが、社会の受け入れ態勢が、日本のみならず世界的に見ても追いついていない状況なのです。スーパーマーケットのような、他人との接触が多い場所でこそアシスト・ドッグの助けが必要なのに、自閉症アシスト犬はオフィシャルのアシスト・ドッグとして政府の公認がおりていないために、公共の場所に立ち入ることができないのです。
犬を介在する活動全般について言えることなのかもしれませんが、当事者の実感として良い影響があるというだけではなく、科学的根拠をもってそれが証明されていくことで、動物介在活動や動物介在療法が広く深く認識される社会になっていけばと願うばかりです。いつか近いうち、法律が変わって、アシスト犬の立ち入りが許されたとき、本人をはじめ、関わる家族の方々の生活が大きく向上することでしょう。
【関連/引用/参考サイト】