【自閉症の治療 Treatment

 

⑤ レクリエーション療法              
  Recreational Therapies
     
Image: Therapeutic Recreation Center
Image: Therapeutic Recreation Center

レクリエーション療法は、レクリエーションのリハビリ的側面を利用しているため、作業療法と似ていますが、適用範囲ははるかに広く、芸術療法や集団精神療法の一部に含まれ、『遊戯療法』ともいわれています。


レクリエーションといえば、楽しい時間を過ごすこと、生活の中で「笑顔」を増やすための行動と認識されていますが、療法として用いることにより、一般と異なる意義があります。レクリエーションを単独や集団で行い、人間の本来の欲求である「楽しみ」や「喜び」を通して、身体機能の低下している高齢者、病気や事故の後遺症がある人、先天性の障害のある人の「リハビリテーション(機能回復)」「残存能力の維持・向上」をはかり、自立した生活が出来るようにする意義があるのです。

 

手足を上げる、曲げる、伸ばすなどの運動を継続的に行うことによって、身体機能維持には繋がります。言語障害も言語療法士の指導のもとに改善はされるでしょう。しかし、ただ「訓練をしている」だけでは単調で面白みがないので、長続きしづらいですよね。それに比べて、スポーツやゲームなどのレクリエー ションを通してすれば、「訓練」という意識をもたずに、遊びながら楽しんで同じ効果を得られます。好きなことをしているのですから、意欲心も高まるし、集中力も自然と持続します。グループで取り組めば、協力し合ったり、競争したりという有意義な時間を共有する人間関係も築くこともでき、感情を抑制することなく自己を表現できる点などから、緊張感は解け、うっ積した不満や不安は発散される効果も。また、創造力を回復させ、達成感を得ることで自信を回復するな ど・・・精神的にも効能があると言われています。

 

 

レクリエーションの内容は、患者の希望を十分に取り入れ、できるだけ自主的な行動にまかせるというのが基本になっていますが、よく用いられる種目は・・・

 

スポーツ:バレーボール・ゲートボール・卓球・サッカー・ソフトボール・野球

ゲーム :トランプ・囲碁・オセロ・マージャン・将棋

ダンス :盆踊り・フォークダンス・社交ダンス・エアロビスク・ヨガ

芸能活動:コーラス・音楽/映画鑑賞・カラオケ・楽器の演奏

芸術作品:絵画・七宝焼き・木工・竹細工・織物・刺子・編み物

野外活動:ハイキング・キャンプ・園芸・散歩・遠足

文芸活動:読書・俳句・詩作・新聞づくり・DVD鑑賞

奉仕活動:福祉施設での活動・道路清掃・道路端の花壇の手入れ

稽古事 :茶道・華道・習字・舞踊

年間行事:新年会・かるたとり凧上げ・ひな祭り・お花見・七夕祭り・盆踊り

     運動会・芸術祭・クリスマス

 

 

対象者は、男性、女性、高齢者、身体的疾患の有無、障害のレベル、積極的な人、消極的な人などがいて、その構成が一様ではありません。グループ療法 の場合、構成を考え、誰もが参加しやすい、明るく楽しい雰囲気をつくるように努めると同時に、対象者の状態や行動をよく観察することも重要です。

 

レクリエーションには、セラピスト自身も参加し、場を盛り上げることは大切ですが、あまり熱中しすぎると、対象者と対抗的になったり、逆に圧迫するように なったりして、治療本来の意味をはずれるようになるので注意。概して、消極的な人の集団では、セラピストが積極的に参加して雰囲気の 醸成に努め、積極的な人の集団ではリーダーシップを参加者に任せ、セラピストはレクリエーションの推移を見守るのが大事だとされています。

 

 

■音楽療法 Music Therapies

Image:NewAutism.com
Image:NewAutism.com

音楽を聞いたり演奏したりする際の生理的・心理的・社会的な効果を応用して、心身の健康の回復、向上をはかる事を目的とする「代替医療 Alternative Medicine」 または「補完医療 Complementary Medicine」です

 

音楽は、「脳波とα波」などと同様、「リズムとメロディー」の波動で作られています。その波動を合わせ、気分によって変わる波形を、脳波のパターンをチェックしながら病気や発達障害を改善させることができるとされている治療法です。

 

ノースカロライナ大学医学部助教授キャシレス・バリー(Cassileth Barrie) は、『代替医療ガイドブック』において「音楽療法は立証済みの補完療法であり、多くの病状や問題に効果を上げている。治癒力はなく、いくつかの補完療法のように、重大疾患の治療法として勧められることもない。しかし、優れた補完医療法の例にもれず、幸福感や生活の質を高め、症状を軽減し、初期治療やリハビリテーションの効果を高めてくれる」と述べています。

 

音楽には、不思議な力が秘められています。音楽が癒しに使われた歴史はかなり古く、原始宗教、自然崇拝などの宗教の誕生と、ほぼ同じ時期に誕生し、はじめは儀式や呪術に用いられ、音楽療法を用いて精神を鼓舞したり、一種のトランス状態を引き起こしたりしていました。3000年前のユダヤ王サウルのうつ病を、ダビデという羊飼いの若者が、ハーブの調べで治したことは、現代でも語り継がれている話です。現代では、医療において、音楽の力を最大限に利用して、心身共に健康に導いていく補助的療法として、うつ病・精神疾患を持つ患者や重度心身障害児の精神発達の改善に積極的に取り入れられています。

 

イギリスの小児科医、精神科医、精神分析家であるW・ウィニコット(Donald Woods Winnicott) は、精神的に障害を持った子供やその母親を診る中で得た経験を元に、「移行対象」(transitional object)という概念を考え出し、1951年のエッセイ「移行対象と移行現象」では、子供がストレスの掛かった中で不安を免れるために拠り所とする馴染みの大切にしている対象に焦点を当てて議論しました。

 

これは、極めて主観的で未分化な対象関係しかない状態から、自己と区別される全体的な対象としての母親像が確立させる状態である二者関係への移行過程では、移行現象とか移行対象がみられるとしました。幼い子どもが肌身はなさず持ち歩く毛布や人形、動物のぬいぐるみなどを指し、それをウイニコットは最初の「自分でない」所有物という発達的位置付けをして移行対象と名づけました。幼児の哺語やもう少し年長の子どもが口ずさむ子守歌やメロディーも同じ機能を果たすとされ、一者関係から二者関係移行、その中間に位置する体験なのです。

 

このウイニコット論を元として、2006年5月~2007年仁愛女子短期大学音楽館にて、コミュニケーションが乏しく、対人的相互交流が困難である3歳の発達障害児を対象に「対象関係の機能」と「コミュニケーションとしての言語の獲得」のため、音楽を用いたある個人セッションが行われました。治療開始時、言語発達に遅れがあり、おうむ返しなど内容伝達を伴わない程度。音楽活動などを共に楽しむことは無く、療法士に対する関心も薄く、指示に従って行動することも無く、他児との相互遊びは困難であるということから、自閉症児だと思われます。週1回40分の計20回実施で、キーボード、鈴、マラカス、太鼓類などを使って、音楽でのコミュニケーションを充分に行い、情緒的交流を深めたところ・・・音楽の役割を欲求充足としての道具から、欲求不満を与える道具へと変更させていくことで言語コミュニケーションに導くことにつながったそうです。対象児自身が表現する音楽と療法士から提供される音楽の区別が可能となり、-者関係から二者関係への水準へと移行していったのです。

 

1958年にイギリス音楽療法協会を設立したオーケストラのチェロ独奏者ジュリエット・アルヴァン女史は、著書「自閉症児のための音楽療法」の中で、音をこわがる重度の子や、攻撃的になってしまう子、不安からひきこもりがちになった子、音楽の素質をもつアスペルガー的な子が、セッションを通してやがて音楽に親しみ、“心を開いて”いく様子を綴っています。

 

音楽療法の効果は科学的にも証明されています。右脳と左脳が互いに連携し、バイノーラル効果音(直接両耳から入ってくるのではなく、左右の差異である音波)に集中する過程で脳が活性化すると言われています。また、2年間の臨床実験において、80%の人が癒しを感じると応えているサブリミナル効果は、耳に聞こえないナレーションを音楽の中に取り入れ、潜在意識を活性化し、自分自身が望んでいる状態を作ると言われています。

 

このように、音楽から得る安らぎや癒しなどの力はとても大きく、音楽療法は、副作用もない治療方法として注目されています。

 

 

【関連/引用/参考サイト】

音と風~音楽療法&病気の子どもたち~

LPOCLUB       -心ひらくピアノ自閉症児と音楽療法士のレッスンの記録20017-野研治

声楽療法(ベルカント・セラピー)

やぎふ音楽療法協会

日本音楽療法学会

音楽療法WEBガイド

[PDF]自閉症児に対する音楽療法 野尻恵美子著(2007131日)