日本でも広く知られるようになってきた「自閉スペクトラム症(ASD)」。多数派とは違う認知のメカニズムや特殊な感覚を持つため、コミュニケーションなどにハンディキャップが現れやすいといわれている。7月にデビューしたラッパー、GOMESSさんは、自閉症であることをカミングアウトして活動している。いったいどんな人なんだろう。話が聞きたくて、彼の所属する「Low High Who? Production」を訪ねた。
「GOMESS(ゴメス)」というミュージシャンとしてのネーム。まるで怪獣のようだと思っ ていたら、本当に怪獣の名前が由来だった。彼の父親いわく「長男だから、(怪獣番組の)『ウルトラQ』の第1話に登場する怪獣の名前をつけたかった」。周 囲の猛反対から断念。本名は森翔平。だが父親やその周囲の人はずっと当たり前のように彼を「ゴメス」と呼んでいた。子供の頃から、2つの名前があったそう だ。
「元ひきこもり」「自閉症ラッパー」というキャッチフレーズ、ユーチューブやプロモーションビデオに映し出される繊細な表情、「孤独の世界からいつ も見てる」という楽曲「人間失格」の印象的な歌詞…。そのイメージからインタビューに不安を感じていたが、現れた彼は人懐っこい笑顔で迎え入れてくれ、次 から次へ言葉を紡ぎ出す、魅力的な人だった。
自閉症とわかったのは10歳のとき。授業さえ出ていればテストはほとんど100点。はしゃぎ声が嫌いで、みんなと遊ぶことがおもしろくない。こだわりが強い。自分をコントロールできなくなる時がある。なんとなく他の子とは違う…。そんな自分に気づいてはいた。
小5のある日、暴れたことをきっかけに学校に行かなくなった。「理由は覚えていない。机や椅子が倒れ、飼ってた金魚も散らばり、気づいたら床に寝転がっ て、馬乗りの先生に取り押さえられていた。遠巻きに眺める子供たち。学校へのイメージが、そのシーンで埋め尽くされてしまった」と、彼は淡々と話す。
それから中学の卒業まで、自宅にひきこもる日々。「ブックオフ、TSUTAYA、病院以外に、ほとんど外出しなかった」。やがて、ソニーミュージッ ク所属歌手の音楽を聴きまくるようになり、ヒップホップグループ「RHYTHMSTER」のファンになり、ヒップホップが好きになった。
音楽をインプットする側からアウトプットする側になったのは、中2の頃。これまでに作った曲はすでに100曲を超えるという。
スイッチがオンになる
「死に急ぎはしないけど、生きていたくなかった。17歳くらいで家出をして、ふがいなさを感じながら餓死するのが理想だった」という彼。けれども、親に勧められて高校を受験。高1の文化祭ではじめて人前でラップを披露し、手応えを感じる。
「ラッパーとしてステージに立つと、スイッチがオンになり、言葉があふれてくる。オフの時の方がいろいろ考えてしまいしんどい」
かなりの生きづらさも味わってきたはずだ。ラップは、面と向かって言葉を交わさなくても表現できる、伝えられるツールなのかもしれない。
「ニンゲンという集団は苦手だけど、人が好き」という彼。「とにかく、今は音楽をつくるのが楽しい。人から求められるってすごくうれしい」と話す。 「自閉症の子の親御さんや、本人から『希望です』ってメールが来たり、自分を成功例のように扱ってくれるので、失敗できないなって思う」。そんな彼の才能 を開花させるのが、「Low High Who? Production」を主宰し、ヒップホップ歌手「Paranel」としても活動するアーティストの 鈴木充さんだ。
実は日本のラップというジャンルが、ちょっと気恥ずかしかった。なのに、GOMESSさんのラップには違和感がない。聴け ば聴くほどいい。なので、「これ聴いてみて」と勧めている。先日、音楽関係者に「いいね。彼はきますね」と言われ、親戚のおばさんのようにうれしかった。 (女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS)
【News Source:2014.9.10
まぜこぜエクスプレス】