鋭い感覚を持つ障害者と多様な分野のプロフェッショナルが共同で生み出した新しい芸術表現を発表する国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」が、 象の鼻テラス(横浜市中区)で開催中だ。障害者の能力を生かした芸術表現の在り方を提案する初めての取り組み。9件の作品を展示するほか、パフォーマンス を随時行う。
横浜ランデヴープロジェクト実行委員会とNPO法人スローレーベルの主催。同実行委は、テラスを拠点に障害者と現代美術家、横浜でものづくりを行う企業などが共同で開発した手作り雑貨の「スローレーベル」ブランドに取り組んできた。
活動を行う中で、障害者が持つ優れた感覚と芸術家らの力が合わさることで、今までに見たことのない芸術表現ができるのではないか、との予感が生じたとい う。そこで、オリンピックにはパラリンピックが同時開催されるように、ヨコハマトリエンナーレが行われる今年、同様の取り組みを実現しようと企画された。
総合ディレクターを務める栗栖良依は「今回は3年後、6年後に向けた出会いと人材育成の場と位置づけたい」と話す。最終的な目標は、障害の有無にかかわらず誰もが自分の居場所と役割を実感できる地域社会の実現だ。
会場の天井を覆う白い網は、織りや編みの手法を得意とする井上唯が、約800人のボランティアとともに形状保持ヤーンで編み上げた作品「whitescaper」。来場者と会場との一体感を生み出し、他の作品と作品とをつなぐような存在だ。
荒神明香(こうじん・はるか)らによるチーム「目【め】」は、市内に居住する自閉症者や知的障害者などの保護者にヒアリングし、そこから影響を受けた「世界に溶ける」を制作した。
ヒアリングの結果、その人なりのこだわりを抱えている点に着目した。ある自閉症者のこだわりはスライスチーズ。かじった歯形を山の形にとらえ、1枚ずつ冷 蔵庫に保存しているという。それを写真にして額の中に並べ、芸術作品としてみせた。荒神は「障害のある方のこだわりに『分かる!』と感じた。作品を作ろう とするときの原点である純粋な動機と気づきがある」と共感する。
展示部門のキュレーターで多摩美大非常勤講師の難波祐子(さちこ)は「障害者というと、遠慮したり気を使ったりという部分があるが、怖がらずに一歩踏み込んでみたら新しいものが見えた」と手応えを感じている。
パフォーマンスは、ダンスとサーカスの二つに分けられる。サーカスとは、近年フランスで発祥し、大道芸の技術や演劇的な身体表現を取り入れたアート系パフォーマンス。8月23~26日、ベルギーで活躍するカトリーヌ・マジを講師に、ワークショップと発表を行う。
また、ロンドンパラリンピックの開会式パフォーマンスに参加した英国のダンスカンパニーでディレクターを務めるペドロ・マシャドによる、ワークショップと発表も(9月25~28日)。こちらのワークショップは参加者を募集中だ。
パフォーマンス部門のディレクターで、社団法人瀬戸内サーカスファクトリー代表理事の田中未知子は「今回はこういうことをするんだな、というトライアル。皆さんに参加してもらい、指導者を育てていく長期的視野を持っている」と話した。
11月3日まで。入場無料。ワークショップの参加方法などの確認はウェブサイトから(http://www.paratriennale.net/)。問い合わせは開催事務局電話045(661)0602。
【News Source:2014.8.18 カナロコ】
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