米グーグルと自閉症支援団体の米オーティズム・スピークスは10日、発達障害の研究促進に向けてタッグを組む計画を発表する。グーグルが自閉症のある子どもとその兄弟、両親の完全な遺伝情報1万ゲノムの解析情報と、その他の臨床データを蓄積する。
遺伝子解析はアルツハイマーやがん、自閉症を理解するカギになるとみられている。だが、膨大なDNAデータベースをコンピューター処理したり蓄積する能力を持たない大学や病院は多い。
今回の計画でつくられるデータベースは、オーティズム・スピークスのゲノム・マッピング・プログラム「AUT10K」の一部になる。全ゲノムを集めた最大規模のデータとみられており、許可を受けた研究者なら誰でも閲覧できるようになる。データを分析するのに必要なツールは、グーグルのシステム内で利用可能となる。
研究者向けに簡単に利用できるポータルサイトが1年以内に開発される見込み。その前に、加工されていない「生データ」の利用が可能になると期待される。
今回の計画で使われるのが、いわゆるクラウド・コンピューティングの技術だ。グーグルが提供するサーバーに情報と分析ツールを入れるとリモートアクセスが可能になり、研究者同士でスムーズに共同作業ができるようになる。独自のゲノム研究を進めるために必要なコンピューターシステムのない機関の研究者にも、アクセスできるようにする。
デューク大学のリサーチコンピューティング責任者を務めるマーク・デロング博士は「クラウド・コンピューティングは平等を進める強力なツールだ。人材開発にも新たな道を開く」と話す。デロング博士は今回の提携に関わっていない。
一般的にゲノム研究の目的は、病気の実態や、誰が一定の疾患を持っていたり発症したりするかを解き明かし、新たな治療法を見つけ出すこと。これまで心臓病の研究者が重大な発見をするなど、数々の成果が生まれてきた。ゲノム研究が薬に結びついた例として「PCSK-9」遺伝子が挙げられる。2000年代半ば、科学者らはPCSK-9の変異が特別なタンパク質の生成を抑制し、コレステロールの水準を制御することを発見した。この変異した遺伝子を持つ人は心臓病も発症しない。現在、PCSK-9に対する抗体臨床試験は最終段階にある。
自閉症のゲノム研究で最も大きな発見の一つが、自閉症にはさまざまなタイプが存在することだ。オーティズム・スピークスのロバート・リング最高科学責任者(CSO)は、ヒトから取ったゲノムDNAを解析する全ゲノム解析が「自閉症とは何かを理解するうえで解像度を高めてくれる」と指摘する。
オーティズム・スピークスは臨床医のチームをさまざまな家庭に派遣し、過去15年間で1万のサンプルを集めた。
グーグルでゲノム・クラウド計画のエンジニアリング・ディレクターを務めるデビッド・グレイザー氏は、自社のクラウド技術を使い、ゲノム研究者が「よりよく、早く、安く」結果を得られるよう手助けしたいと話す。オーティズム・スピークスがグーグルに支払う料金は明らかにしなかった。
こうした膨大なゲノム・データベースを構築するには、技術的な困難を乗り越える必要がある。まずは蓄積の問題で、1ゲノムのデジタル情報化には約100ギガバイトの容量が必要だ。一般的なデスクトップパソコンに保存できる全ゲノムは10セットほどになる。デューク大学のデロング博士によると、すでに集められたゲノム情報には膨大なものがあり、インターネットでダウンロードするには時間がかかりすぎるという。
【News Source: 2014.6.10 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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