【本】アスペルガー症候群と子育て 明治大学国際日本学部教授 藤本由香里

最近、「発達障害」「アスペルガー症候群」という言葉をよく聞くようになった。だがその実際は、まだよく知られているとはいえない。記事などで取り上げら れることがあっても、「理解が必要な弱者」という扱いがほとんどだ。そんな中で、「アスペルガー」の実態を、当事者の立場から「へえ、そうだったのか!」 と目からウロコの面白さで読ませてくれるマンガ作品が複数登場している。

その一つが、自身がアスペルガー障害を持つ作者が、周囲から「ちょっと変わった子」と思われながら、保育園から小学校に入学し、小学4年生で LD(学習障害)とADHD(注意欠陥多動性障害)の診断を受けるまでを描いた自伝的コミック、沖田×華(ばっか)『ガキのためいき』だ。

 

例えば保育園で、×華ちゃんが「他の子と話しているのを見たことがない」。これは×華ちゃんが、がやがやしているところでは特定の誰かの声を選択的に聞き 取ることができないためだ。だから園児がたくさんいる保育園では、先生の声も聞こえなければ、自分に話しかけている友達の声も聞こえない。

 

逆に、そんな×華ちゃんには、コンピューター学習はとても向いている。ヘッドホンで周囲の音を遮ることができるし、教室で突然当てられるといった予想外の ことは起こらず、自分のペースで順番に問題を解いていける。だけどそれが理解されていなければ、「コンピューターまかせなんて手抜き」と、親にむりやり塾 を替えられてしまうのだ。

 

また、×華ちゃんは病院で「手のイボを取らないで~!!」と大泣きするが、これは、左右の区別が難しい×華ちゃんが、右手のイボを左右を判断する基準にしていたためだ。

 その他、強いストレスがかかると口がきけなくなってしまうのに、相手からは意地になって黙り込んでいると思われるなど、本人から事情を説明されると理解できることがたくさんある。アスペルガーの症状は人によって違うとはいえ、このマンガを読むと、その一端が理解できる。

 

何よりこの作品は、マンガとして面白い。この作者の他の作品をもっと読みたいという気持ちにさせるのだ。

 

もう一つ、逆に、アスペルガー障害を持つ親、それも男親が専業主夫として子供を育てたら…という設定なのが、逢坂みえこ『プロチチ』だ。

 

優秀なエンジニアだった夫はアスペルガーによる対人障害をかかえていて、会社をクビになってしまう。そんな時期に、編集者である妻が妊娠・出産し、彼は 「プロの父親」=「プロチチ」に! 何事も予定通りでないと不安を覚える彼にとって、予測のつかない子育ては苦難の連続だ。だが、「パートタイムの母親が フルタイムの父親にかなうと思うか?」。彼は「プロの父親」として、彼にしかできない、きっちりとした中に愛情ある子育てを日々実践していく。

 

これらを読んでいると、子供が育つということは、なんという奇跡なのだろう、と思う。アスペルガー症候群と子育て。教えられることは大きい。

 

2014.4.16 産経ニュース