韓国で障害者が南部の離島に売り飛ばされ、塩田などで長時間労働を強制される事件が今年1月に発覚、「塩田奴隷事件」として社会に衝撃を与えている。事態 を重視した朴槿恵(パク・クネ)大統領の指示を受けて、警察が一斉捜索したところ、塩田や養殖場で強制的に働かされていた障害者ら100人以上が見つかっ た。4年後には、平昌(ピョンチャン)で冬季五輪とともに、パラリンピックも開催されるが、障害者らに対する差別が根強く残る韓国社会の暗部を浮き彫りに している。
韓国メディアなどによると、今年1月末、韓国・南西部の全羅南道木浦(モッポ)市から船で約2時間の新衣島の塩田で、強制的に働かせていた知的障害のある男性(48)と、視覚障害者の男性(40)2人が救出、保護されたのが事件発覚のきっかけだった。
知的障害者の男性は2008年11月、木浦市の職業安定所で知り合った男から、「いい仕事がある」と誘われ、もう一人の視覚障害者の男性は2012年7月 に、ホームレス生活をしていたソウル市内の駅で、無許可の職業あっせん業者にそそのかされて、それぞれ塩田に送り込まれた。
塩田の経営者は、仲介業者に30万~100万ウォン(3万~10万円)渡して2人を引き取り、塩田での作業のほか、農作業や土木・建設作業、家事などを命じて奴隷のように扱った。
2人には、1日3回の食事と2日に1箱のたばこ、作業服が支給されただけで、睡眠時間は約5時間。冷暖房がない倉庫での生活を強いられていた。3度にわたり島からの脱出を試みたが、見かけた島民が塩田の経営者に知らせるなどして連れ戻された。むちで打たれるなどの暴行を受けたうえ、「今度、逃げたら刺すぞ」と脅されたという。
また、目が不自由な男性に対しては、作業を怠けているとして、角材や鉄パイプで殴打するなど日常的に暴行。知的障害のある男性は作業中に足を骨折したが、治療を受けられずに放置され、足を切断する状態にまで追いやられたという。
しかし、視覚障害のある男性が母親あての手紙を、近くの集落の理髪店に託して助けを求めた。母親からの通報を受けたソウルの警察が、塩の取引業者を装って聞き込み捜査などを行い、2人は1年半から5年2カ月ぶりに奴隷生活から解放された。
2人が働かされていた島嶼(とうしょ)地域や沿岸部は、ミネラル分が豊富で、ブランド品にもなっている天日塩の韓国有数の生産地。事件の背景には、塩田での人手不足に加えて閉鎖的な地域性があるとみられている。
事件を受けて、朴大統領は「21世紀にはあってはならない現実」として、ほかの離島や沿岸部を含めて、塩田やノリ養殖場などの徹底的な調査と同様の事件の根絶を指示した。
現地メディアなどによると、韓国警察庁は事件発覚後に塩田やノリ養殖場、畜舎などに対する一斉捜索を実施、失踪・家出人100人以上を発見・保護した。事 業者19人が監禁や暴行、賃金未払いをしていたとして立件するなどした。働かされていた多くが知的障害者らで、未払い賃金の総額は12億ウォン(約1億2 千万円)に達した。
警察の捜索を逃れるため、ただ働きさせていた3人の知的障害者に対して「警察がお前らを収容所送りにしようとしている。捕まりたくなかったら、山のなかに隠れていろ」と指示するなどして、「奴隷隠し」をする塩田経営者もいた。
住民の情報提供で、この経営者は摘発されたが、孤立した離島に、送り込まれた作業員は経営者の言葉が絶対だと教え込まれ、洗脳されていた。また、地域の多くの住民らが見てみぬをふりをしているほか、地元警察も実態を知りながら黙認していた疑惑も出ている。
儒教社会で、李氏朝鮮王朝時代などの官僚機構を担った両班(ヤンバン)などの身分階級の伝統が残る韓国では、障害者に対する差別意識も根強いとされる。
法整備などで改善が進んでいるが、韓国の有力新聞も2007年に「障害者差別の恥ずかしい現実」とする社説を掲載。障害を持つ男子中学生が体育の授業のた びに鍵をかけた教室に放置されたり、障害者の学生に教授が「単位をあげるから授業に来るな」と指示した事例などを紹介している。
2018年に平昌で開かれる冬季パラリンピックでは、組織委員長が「参加者がまったく不自由を感じない大会にする」と明言している。また、その4年後には 東京でパラリンピックが開かれる。大阪にも今後、障害者スポーツ選手が訪れる機会が増えるとみられるが、施設面だけでなく、障害者に対する偏見のない町づ くりが期待される。
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