自閉症の新たな治療につながる可能性~世界初 オキシトシン点鼻剤による対人コミュニケーション障害の改善を実証~【東京】

自閉症スペクトラム障害は、 表情や声色を活用して相手の気持ちを汲み取ることが難しいといった対人コミュニケーションの障害を主な症状とし、一般人口の100人に1人以上で認められ る代表的な発達障害です。この障害の原因は完全には解明されておらず、その治療法も確立されていません。結果として、知能の高い方でもこの障害のために社 会生活に困難をきたしている現状にあります。

東京大学 大学院医学系研究科 精神医学分野 准教授 山末 英典は、同研究科 統合生理学分野 特任助教(当時) 渡部 喬光らと共同で、ホルモンの1種であるオキシトシン注2)をスプレーによって鼻から吸入することで、自閉症スペクトラム障害において元来低下していた内側前頭前野注3)と呼ばれる脳の部位の活動が活性化され、それと共に対人コミュニケーションの障害が改善されることを世界で初めて示しました。

 

今回の研究成果をもとに、オキシトシンの点鼻スプレー製剤を活用して、これまで確立されていなかった自閉症スペクトラム障害における対人コミュニケーショ ン障害の治療法開発に取り組んでいます。まず、実験室内で見出した今回の1回の投与による効果が、連日投与を続けた場合にも認められ、日常生活においても 役に立つのかを検証する必要があります。この検証のために、東京大学 医学部 附属病院では自閉症スペクトラム障害の方20名の協力を得て、オキシトシンの点鼻スプレー6週間投与の効果を検証する臨床試験を既に行っています。今後は このデータを解析した上で、有効性と安全性を検証し、日常診療で使用するためにはさらにどれだけの方に臨床試験に参加して頂けば良いかを算出する予定で す。同時に、これまで生活場面における対人コミュニケーション障害の重症度が時間的に変化していく様子を客観的に評価できる方法がなかったため、その評価 方法の確立にも取り組んでいます。また、今回対象としなかった女性や幼少期の方についてもさらにオキシトシンの有効性や安全性を検証する必要があります。

 

2013.12.19 東京大学