障害者が接客に関わって自立的に働いたり、仕事の能力を高めたりできる場が広がっている。聴覚に障害があるスタッフが手話や筆談でもてなすカフェや、知的障害者が軽食を販売して就労経験を積むキッチンカーなど。単調な作業ではなく、障害者がやりがいを持って働ける環境を整える狙いがある。
◆手話・筆談で注文
東京都文京区本郷のビル2階。スープが人気の「ソーシャルカフェ サインウィズミー」は、手話と筆談を「公用語」とするカフェだ。経営者の柳匡裕さん(40)とスタッフ6人は全員、聴覚に障害があり、お客は手話や筆談のほかメニューを指さしてやりとりする。
壁には筆談に使えるホワイトボードが張られ、クラシック音楽が流れる店内で話し声は時折聞こえる程度で、落ち着いた雰囲気だ。中には手話で話しかけられて驚き、注文せずに帰ってしまうお客もいるが、次第にリピーターが増えた。1日平均で約60人の来店客の中には外国人も多い。
自動車メーカー研究所や障害者の就労支援会社での勤務経験から、障害者が継続して仕事することの難しさを痛感した柳さんが「聴覚障害者も自立して能動的に働ける場をつくりたい」と2011年末に開店した。
スタッフは「ここではコミュニケーションが難なく取れ、やりがいを感じる」(店長代理の岡本記代子さん)と満足そう。柳さんも「環境が整えば、聴覚に障害があってもおもてなしができることを示したい」と接客力の向上に余念がない。
東京都渋谷区の公園「みやした こうえん」。チキンサンドやコーヒーの香りが漂うキッチンカー「シブヤパークカフェ」では、区内の福祉作業所に通う知的障害者約10人がシフトを組み、接客や清掃、付き添いの職員の調理補助をこなす。
飲食店を営む入江洋仁さん(42)が「人から感謝されてやりがいを感じる障害者向けの就労機会をつくりたい」と今年1月に区と協力して始めた。「ここで培った力と経験を自信につなげ、本格的な就労への可能性を広げてほしい」と期待する。
スタッフは「お客からありがとうと言われるとうれしい」(本田しのぶさん)、「掃除も、人が行き交うのを見ているのも好き」(大鐘那欧也さん)と充実した様子だ。
◆戦力として雇用
厚生労働省によると、民間企業で働く障害者は年々増え、12年は38万人強。従来は仕分けといった単純な作業が多かったが、障害者の就労支援会社ウイングル(東京都港区)によると、最近は経理やパソコン関連、介護など専門知識・技術が必要な職種に就く人も増えている。
企業に義務付ける障害者の法定雇用率が4月に1.8%から2.0%に引き上げられ、「戦力として障害者を雇いたいという企業の相談も多くなっている」(ウイングル広報の三谷郁夫さん)。接客サービスを含め、働きがいを求める障害者に応える機会は着実に広がりつつあるようだ。
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