札幌市西区内の工場が立ち並ぶ一角にこの春、何ともかわいらしいギャラリーが誕生した。「ともにアートギャラリー」と名付けられたこの施設には、知的障害者が作業活動の合間に取り組んだ作品が展示してある。長く指導に当たってきた銅版画家の臼井千晶さん(65)は「色彩感覚と表現力にあふれた作品をぜひ見にきていただけたら」と話している。
JR発寒(はっさむ)駅から歩くこと約20分。工場や大型量販店が軒を連ねる中に、お目当ての「ともにアートギャラリー」はたたずんでいた。オープン前日の4月26日には報道陣へのお披露目会が開かれ、色鮮やかなアクリル画や細密に描かれたペン画、大胆な構図の水彩画など個性豊かな作品50点が展示されていた。ギャラリーの2階では、月に一度指導に来ている洞爺湖(とうやこ)町在住の銅版画家、臼井さんが笑顔で見守る中、知的障害のある画家たちが一心不乱にペンや絵筆を走らせる。
「ここに来るようになって10年になりますが、みんなすごくレベルアップしていますね。表現力があるから、私が教えなくても持っているものがだんだん出てくるんです。こうやってギャラリーができてみんなから評価されると、さらに進歩する。私はたいしたことはしていませんが、10年間の積み重ねがこういう形になったと思うと、こんなうれしいことはありません」と臼井さんは目を細める。
「ともにアートギャラリー」を開設したのは、同じ敷地内で知的障害者の通所施設を運営する社会福祉法人「ともに福祉会」だ。平成17年の設立で、就労を目指す人の支援事業と、日々の作業を通して働く喜びを感じてもらう事業の2つのプログラムがある。その作業活動のほかに週一回、創作活動の時間があり、現在はおよそ15人が主に絵画の制作に精を出している。
もともとは「ともに福祉会」の母体の特殊衣料という会社が知的障害者のための小規模作業所を設け、そこで創作活動を始めたのが最初だった。「障害のある方の芸術活動を後押ししている団体のセミナーに行かせていただいて、アートが障害のある方の表現力を養い、なにがしかの収入を得るのにつながるということを聞き、これは本格的にやっていきたいなと思ったのが始まりです。最初は絵を描く人は少なく、立体造形などを手がけていた人もいましたが、絵はポストカードになったりカレンダーになったりと、いろんなところに掲出できる。今はほとんど全員が絵を描いています」と副施設長の石川則子さん(56)は言う。
石川さんによると、参加者は一人一人個性が際立っており、1本の線を描くのにずっと悩んで1時間も費やす人がいるかと思えば、鳥が好きで鳥ばかり描いている人もいるという。記者が創作活動を見学させてもらった際も、雑誌の写真を参考に驚くべきスピードで次から次へと作品を仕上げている人がいたが、構図はしっかりしていて、決していい加減に描いているわけではない。「みんなわが道を行くで、人のまねはゼロなんです」と石川さんも舌を巻く。
「ともに福祉会」では、これらの作品をカレンダーやポストカードにしたり、公共の施設を借りて作品展を開いたりしていたが、できるだけ多くの人に原画を見てもらいたいと、今回の常設ギャラリーの開設に踏み切った。「作品が持っているエネルギーは原画じゃないと伝わらない。彼らの絵は、頭の中で考えていいものを描こう、とかいうものではない。本当に表現している。それを少しでも多くの人に見てもらいたいと思うんです」
ギャラリーのオープンに合わせて「ともにアート」のホームページも開設したほか、作品をモチーフにしたハンカチやバッグ、ポーチなどの販売もしている。障害者の経済力アップに結びつけたいということもあるが、「ほめられて認められると自信がつくというのはみんな同じ。あなたはこういう魅力がありますよ、と後押しすることで自信につながって、人と話ができるようになったりもするんです」と石川さんはアートがもたらすさまざまな効果に期待を寄せる。
指導を行っている臼井さんは言う。「今はともに福祉会の利用者だけに限定していますが、ほかにもやりたいという人がいたら、広く門戸を開いてやれたらいいねと言っているんです。こういうスペースができたんですから、今後はもっと広がっていったらいい。これだけの能力があっちこっちに眠っているなんてもったいないですもんね」
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かしはらあや (火曜日, 01 3月 2016 07:35)
はじめまして、こういう活動は障害をもった人へ余裕をもって相対している活動だと感じております。自分らしさを確認できる良い場所ですね。私の兄も知的障害をもっており51歳です。作業所へ通っておりますが、労働が苦手です。年齢的なこともあり学習能力の低下がめだちます。小さい頃から鉛筆で文字と緻密な線を混ぜた絵を描くのが好きでひたすら紙と鉛筆があると何かやっています。その集中力はすごいと日ごろから感じております。
仕事や日常の事が上手くできずいつも注意や怒られることが多く本人にとっても家族にとっても悪循環の日々になっており、労働などにむかなければ今本人に残っている能力が生かされる好きなことをのばしてやれないかと高齢の親と私(妹)とで日々話しているところです。札幌であればすぐにでもいってみたいのですが、ニセコに住んでいますので雪がとけましたらそちらのアートを兄とドライブがてら見にうかがいたいです。
これからも心のそこからわきでるアート活動を続けてください。