男児が自閉症と診断される確率は、女児の4倍に及んでいる。それはなぜだろうか。
最近の新たな研究が、この分野の最大の謎の1つとも言えるこの質問に回答している。先週行われたInternational Society for Autism Researchの年次会合で発表された最新の研究結果などだ。現在の専門家の見解は、自閉症児の遺伝的感受性、脳の発達、それに社会的学習に性差が存在し、これが自閉症への理解を深めたり、どう治療すべきかを考えたりする上で重要だとする主張に向かっている。
自閉症はソーシャルスキルの欠如と反復的な行動を特徴とする発達障害で、全人口の1%以上がそう診断されている。自閉症は長年、男児の方が診断される確率が高いとして知られている。
ただし、女児の場合、より重度の自閉症であることが多いように見える。自閉症児の男女比は全体で4対1だが、知能を考慮すると、その差はさらに顕著になる。知能がより高い水準では、男女比が8対1—10対1になる、と専門家は指摘する。
この差がなぜ存在するのか、そしてどれほど多くの女児が誤診されたり、診断を見落とされたりしているかは不明だ。その一方で、科学者らは性差の考慮が有意義であるとの見方を強めている。
研究への資金援助を行っている支援団体「Autism Speaks」の最高科学責任者を務めるジェラルドリン・ドーソン氏は、「性差は重要な生物学的手掛かりだ。なぜこれほど男児に多いのかがそれを物語っている」と話す。
米エール大学の研究チームは、女性であることが自閉症を遺伝的に防いでいるようだとする研究結果を発表した。一方、エモリー大学の研究チームは、自閉症の男児と女児で社会情報の学習の仕方が異なり、これが他者と交流した際の成果に違いをもたらすという暫定的な研究結果を発表した。
最近の研究は、これまでに発表された研究と併せて、自閉症の診断と個々の治療計画の立案において、性別を考慮すべきだということを示唆している。
自閉症やそれに関連する障害における性差は、最近まで比較的軽視されてきており、理解があまり進んでいない。自閉症と診断される女児の数が少ないということは、研究に性差を正確に調べられるほどの女児が含まれていないことが多いことを意味する。女児は研究対象から完全に除外されていることも多い。
スウェーデン・イエーテボリ大学のクリストファー・ギルバーグ教授(児童・思春期精神医学)は、正しい診断と治療のために、性差を理解することは重要だと指摘する。同教授によれば、自閉症の特徴に対する専門家の理解は主に男児の研究に基づいており、女児が対象から除外されていたり、誤診されていたりする可能性があるからだという。一部の証拠によると、女児は平均して男児よりも遅い時期に自閉症と診断されている。
それに加え、自閉症スペクトラム障害を持つ子どもの臨床像は通常複雑だ。同教授によれば、大半は注意欠陥多動性障害(ADHD)、睡眠障害や、てんかんといった他の症状も合わせ持つ。
同教授の研究チームはソーシャルスキルが欠如している、ないし注意欠陥障害を持つ3歳から18歳の女子100人について調べた。このうち47人は自閉症と診断された。また自閉症と診断された女子の80%がADHDとも診断された。ほぼ全ての女子がうつと不安障害に苦しみ、家族関係で問題を抱えていた。
性差の理解は、自閉症のさらなる解明に影響をもたらす。専門家は、例えば遺伝子、ホルモン、ないし脳の構造の違いなどによって、男児は自閉症に対してより脆弱(ぜいじゃく)なのかもしれないと推測している。
しかし、遺伝的な見地からすると、男児が自閉症への感受性が強いのではなく、むしろ女児が自閉症から守られていることを示す証拠が増えている。エール大学の研究チームは先週数千人の自閉症児のDNAを調べた結果を発表し、この考え方を支持した。
同チームは、自閉症に関連する高リスクな遺伝的変異が実際には女児の方が男児より多く、平均で2倍多いことを突き止めた。しかし、同大学の博士研究員スティーブン・サンダース氏は、女児の方が自閉症の特徴を現すことが少ないため、女性であることに関する何かが自閉症に対する防御になっていると指摘した。
このため、同チームは男性と女性が遺伝的なレベルで2つの違った障害に見舞われているのかもしれないと推測した。しかし、その後の研究から、同チームは男児と女児が同一の病に苦しんでいるようだと結論付けたという。
男女で同じ症状を持っていても、情報の処理の仕方によって違った結果を生むことがあることを示す暫定的な研究結果もある。例えば、社会的学習の研究によると、男女で差があることが分かった。社会的学習は、自閉症スペクトラム障害と診断された子どもに影響を与えているように見える中核のプロセスだ。
エモリー大学マーカス自閉症センターの責任者エイミー・クリン博士の研究チームによると、自閉症児は人間の口を見る傾向にあるのに対し、健常児は目を見る傾向にあることが分かった。同チームは、目は感情や関心など、多くの社会的情報を提供する傾向にあるため、自閉症児はこの種の情報の多くを見落としてしまい、他者と交流した際に社会的障害が生じると考えた。
しかし、その後の新たな研究で、同チームは視線の性差を健常児と自閉症児で比較し、驚くべき結果を得た。チームは社会的な交流を含む6本の動画を自閉症の男児52人・女児18人と健常な男児26人・女児36人に見せた。動画は男の子が野球をしている場面や、子どもたちがおしゃべりしている場面を映したものだった。チームは視線追跡技術を使い、動画の再生中、子どもたちがどこを見ていたかを調べることができた。
全体的に、自閉症の男児と女児は健常児に比べると目を見る頻度が少なかった。これはこれまでの研究と一致した結果だった。男児がアイコンタクトをした量と社会的障害のレベルとは、直接的な関係がみられた。目を見ない男児は社会的障害が重度だった。
一方、自閉症の女児は正反対の傾向を示した。エモリー大学の大学院生ジェニファー・モリウチ氏によると、比較的目に集中していた女児で社会的障害が重い傾向があったという。
同チームは女児と男児で目を見るタイミングが大きく異なることを発見した。これは男女で同じ手掛かりに従っていないことをうかがわせる。
同チームは視線に関するこういった違いを理解するための取り組みを続けているという。同センターの研究責任者ウォーレン・ジョーンズ氏はこれが、自閉症が女児にどう現れるかがほとんど知られていないことを浮き彫りにしていると指摘する。
前出のクリン博士は、「われわれは(自閉症を持つ)男女が日常生活に溶け込もうとする際、同じことをすると想定する傾向にあるが、それが実際はそうでないことを示す証拠が出てきている」と述べた。
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