4月2日は「世界自閉症啓発デー」だった。現在でも自閉症にまつわる誤解や思い込みは多い。例えば、新3種混合ワクチンは自閉症の原因ではない。一方、自閉症の人が増えているのは事実だ。啓発デーを機会に、この障害について学ぼう。
4月2日は「自閉症啓発デー」で、世界中の多くの建物が青でライトアップされた。他人と交流をもつことが大変な人々がいることを意識するためだ。自閉症は脳組織の発達障害で、その罹病率は増加し続けている。新生児の約150人に1人がこの障害にかかり、特に男児が多い(4:1の割合)。
自閉症という名称は、この病気の多種多様さを適切に表現していない。特に、心の健康に関するあらゆる障害の参照マニュアルとなる『精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental
Disorders:DSM)』の新しい第5版に従うとなおさらだ(参考:精神疾患のマニュアルが改訂:病気の定義とは )。
ローマのジェズ・バンビーノ小児医療センターの児童精神医学者、ジョヴァンニ・ヴァレーリはわたしたちにこう説明する。「新版では、自閉症スペクトラム障害の名前のもとに、以前は自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群、 小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害の、5つの異なるカテゴリーに分類されていた一連のすべての病状が集められました」。
『DSM』第5版は、まずこの自閉症スペクトラム障害の総合的な診断のために、さまざまな指標を提供して(社会性障害、コミュニケーション障害の重さ、言語能力、反復行動の存在とその類型、知的障害、関連する病気など)、そのあとで非常に詳細な病状を定義している。こうすることで、現在用いることのできる10〜15の処置モデルの最良の組み合わせを選択することが、より簡単になるはずだ。これらのモデルは、2011年の保健高等研究所(Istituto
Superiore di Sanita)のガイドラインにあるのと同じものだ。
実際、もしこうした障害がまだ医学的に多くの謎を残しているにしても、数多くの研究や調査のおかげで、現在では多くのことが判明している。そして著しい改善を可能にする、さまざまな手段が開発された。しかしいまでもたくさんの間違った伝説や思い込み、偏見が残っていて、自閉症スペクトラム障害をもつ人々の生活を困難なものにしている。ヴァレーリ医師の助けを借りて、いくつかのことをはっきりさせておこう。
1. 自閉症の原因はわからない
原因となる要素の根本的な部分は判明しており、例えば高血圧のようなほかの病気よりも、わかっていることは多い。ずっと以前からわかっているのは、遺伝が重要な要素となっていて60〜80%の割合を占めていることだ。しかし自閉症の遺伝子は存在しない。10ほどの遺伝子が関係していて、互いに相互作用しているのだ。いずれにせよ、遺伝的脆弱性が常に存在している。
さらに、遺伝的要因と並んで重要な要因となっていることが証明されているのは、受精時の父親の年齢が高いこと、妊娠後最初の3カ月間でのウイルス感染、サリドマイドやバルプロ酸のような薬品の摂取、早産、分娩前後の傷害で、これらが残りの20〜40%の要因となる。
2. ワクチンが自閉症を引き起こす?
麻疹、流行性耳下腺炎、風疹の新3種混合ワクチンが関係しているというのはデマだ。最近また騒ぎになったが、過去に何度もはっきりと否定されてきた。疑惑は、イギリスの消化器医アンドリュー・ウェイクフィールドの研究の結果から生まれたが、これはのちに途方もない虚偽であることが判明した。
この説は、製薬会社だけでなく公的研究機関が行っている多くの研究が否定しており、さらには日常的な臨床経験もある。自閉症スペクトラム障害の診断は、ワクチンを受けていない子どもにも下されているのだ。まさに、両親がこの種のデマを恐れて子どもにワクチンを受けさせなかった場合にも。ワクチンと関係がないことについてもっと知るには、ここやここやここを読んでみるといい。
3. 2歳以降にのみ確実に診断することができる
信頼できる診断は、この障害の病状が部分的に確定する2歳ぐらいで下すことが可能になる。信頼できるというのは、ある医療センターの専門家が診断すれば、別の医療センターの別の専門家によってもそれが確認されるだろうということだ。1年や2年の間が空いても変わらない。この年になると、自閉症スペクトラム障害の診断は、より一般的な病気を対象として、X線写真のような明白なテストのあるほかの多くの病気の診断よりも確実となる。
しかしすでに18カ月ごろには、指標となる徴候が観察される。そして現在では、生後1年以内で子どもを見分けるための手法が開発されている。早期診断が重要なのだ。狙いを定めて処置を行い、能力をいくらかでも回復させる可能性を高めることができる。さらに狙いを定めて処置を早期に行うことで、患者の脳組織の異常を改善できるであろうことが、実験的な研究によって証明されつつある。
4. 生物学的症状はなく、行動症状のみなのか?
自閉症スペクトラム障害は精神疾患ではなく、脳構造の発達の神経生物学的な障害だ。このことは、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)のような現代的な画像診断の技術のおかげではっきりと証明された。
社会脳に関係する部位のような脳のネットワークの発達や機能の異常、そして感情機能を支える脳のネットワークの組織の異常が観察されており、これらはこの障害の主要な特徴のひとつである、社会性障害やコミュニケーション障害と関連づけられている。さらに患者の病状は複雑で、しばしば癲癇や胃腸の問題、偏食、アレルギーのような医学的問題も含まれている。
5. 治療法はなく、治ることはない
確かに決定的な治療法は存在しない。しかし、さまざまな認知的・行動的アプローチを組み合わせた治療モデルがいくつか存在していて、医師たちはそれらに基づいて個別に効果的な治療法を組み立てる。これらはしばしば患者の生涯の間に変化していく。
こうした処置の効果は、障害の重さや、知的障害が付随するかどうかにも依存する。もし知的障害があると(約50〜60%のケース)、精神病院や障害者施設に収容されるのを避けられれば成功ということになる(わずか数十年前まではそうなっていた)。
そうでない場合は、回復の可能性の幅が広がり、部分的な支援のみでコミュニティのなかで暮らせるようになったり、さらには自立した生活を送れるようになることもある。テンプル・グランディンをはじめとする、現在出版されている多くの患者の自伝で語られているとおりだ。
6. 他者の感情を理解しない
部分的には事実だ。自閉症の人は幸福や悲しみ、怒りのようなすべての基本的感情を感じ、認識することができる。これに対して、恥や困惑のようなもっと複雑な感情については、非常に苦労する。これは、彼らが異なる「精神化」の能力をもっていることにも起因する。これは、他者に精神状態を割り当てる能力のことで、つまり他者が何を望んでいるか、考えているか、感じているかを見抜くことだ。
さらに、自分自身を言葉で表現するのが事実上困難な人が多い。この能力を決して回復できないこともある。このため、彼ら自身が感情を有していないと思われてしまう。これは間違いで、最終的には、感じていることを表現するのに別の方法を見つける人が多い。
7. 友人を欲しがらない、つくることができない
自閉症スペクトラム障害の人は、相互的な社会関係を確立する能力に障害をもち、一般的に少なくともある程度の間は、彼らは人と交流することにあまり関心をもたない。しかし、孤独の欲求もみな同じではない。この意味では、少なくとも3つの異なる患者のタイプに分類される。
孤独型は、他者との交流や接触に関心をもたない。受動型は他者、例えば遊んだり交流したりする同年代の子どもを観察して、加わりたいはずだけれどもどうすればいいかわからない。だいたい、中国にいる西洋人が会話に加わりたいと思うけれども言葉がわからないときのようなものだ。そして奇矯型はひとりで完結しているようだが、特定の特徴、例えばメガネや赤毛の人を見ると、触ったりかかわったりしようとする。
8. みな「レインマン」のように天才なのだろうか?
この思い込みを否定するには、自閉症スペクトラム障害の人々の50〜60%は重大な認知障害、いわゆる知的障害をもつというデータだけで十分だろう。残りの50%の事例においては、大部分は100前後の中程度のIQをもち、大部分の人々と同じだ。さらにIQ140もあるような非常に知性の高い人や、もう少し才知の劣る人も一定の割合いる。自閉障害をもたない人の場合とまったく同じだ。
9. 不測の事態に対応できない
これは事実だ。そしてこのために治療の多くは、起きるであろう事柄を予測する能力を向上させることに力を注いでている。例えば、もし両親のひとりが、子どもが診察のために病院に行くときにパニックになることを恐れるなら、起こるだろう事柄を何枚かの絵で語って聞かせることがときとしてアドヴァイスされる。クルマや診察室での医師の診察、そして家に帰るまでについて、子どもに準備させる。これで十分パニックを避けることができる。
大人になってからは、ほかの解決法を見つけなければならない。人によっては、社会的な状況のフィルムライブラリーをつくることもある。ヴィデオを通して、これから起こるだろうとわかっていること(友人との夕食、仕事の会合、医師の診察)に対応する準備をする。
10. 肉体的な接触や、視線を直接交わすことに耐えられない
肉体的な接触を完全にであれ部分的にであれ拒否することは、一部の患者の場合のみ事実で、反対になでられたり、可愛がられたり、くすぐられたりするのを非常に好む人もいる。反応は個人的なものであり、視覚的なコンタクトもこれと同じだ。居心地の悪さやストレスの原因になる可能性のある人もいれば、単に目を介することでより多くの情報を得ることができ、視線がコミュニケーションの根本的な部分となっていることを知らないだけの人もいる。
11. 性に関心がない
これは、自閉症スペクトラム障害に関する伝説で最も間違っているもののひとつだ。これにより、孤独な人間というステレオタイプと相まって、しばしば患者が家族以外との社会的関係をもたない原因となる。自閉症スペクトラム障害の人々は、ほかの人々とまったく同じように性に関心をもつ。しかし彼らが他者の感情を解釈したり、相互に交流することが困難であるために、このような欲求は実らないことが多い。
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