<新型出生前診断>「陽性なら」「陽性でも」命の葛藤2週間【東京】

妊婦の血液から胎児の染色体異常を判別する新型出生前診断の結果通知が、実施病院で始まった。東京都品川区の昭和大病院では、1日の診断開始から約50人が検査を受け、15人以上に結果が通知された。同病院で通知を受けた3組の妊婦らが毎日新聞の取材に応じ、結果を知るまでの心の葛藤を語った。

23日午後、東京都内のパートの女性(42)と会社員の夫(43)が緊張した面持ちで病院を訪れた。「結果は陰性(異常なし)です」。四元(よつもと)淳子・認定遺伝カウンセラーが告げると、夫は安堵(あんど)のため息をもらした。

採血から通知までの2週間、女性は検査の対象疾患の一つ、ダウン症の子が生まれた場合をひたすら考え続けた。おなかが膨らみ、夫から「自分たちの子ども」といたわられるうち、気持ちに変化もあった。最初は「育てられるのか」と心配ばかりが募ったが、次第に「何をしてあげられるか」と子どもへの思いが中心になり、陽性でも受け止める心の準備ができたという。

神奈川県内に住むいずれも会社員の女性(43)と夫(44)は17日、夫婦で意見の相違を抱えたまま通知を受けた。顕微授精で授かった第1子を妊娠中の女性は「年齢的に最後まで面倒を見られない」と、陽性なら中絶する意思を固めていたが、社会生活を営むダウン症の人を知る夫は「ちゃんと生きられる。産んでほしい」と考えていた。「陽性なら改めて話し合うつもりだったが、結果は考えないようにしていた」と話す夫の隣で、女性は「(陽性の時)夫にどう説明するか考えると頭痛がした」と明かした。結果は陰性だった。

1歳の長男を抱えた横浜市内の主婦(38)は17日に陰性と分かり「良かった」と笑みを浮かべた。会社員の夫(44)と事前に話し合い、「陽性なら産まない」と決めていた。「ひどいと思う人もいるだろうが、生まれてきた子は本当に幸せなのか分からない」と話した。

同病院の関沢明彦教授によると、検査前のカウンセリングを受けた夫婦の中には、流産の危険性はあるがより多くの染色体異常を調べられる羊水検査を選ぶ人や、逆に「結果が出たら気持ちが混乱する」と検査を断った人もいたという。一方、検査を受け、通知までの間に話し合いを重ねる夫婦や居住地域の福祉制度を調べるカップルもいた。四元さんは「つらいだろうが、考え方の幅を広げる重要な時間にもなるのでは」と話す。

 

2013.4.24 毎日新聞