雇用難は先進国共通の悩みだ。情報化・機械化が進み、新興国の追い上げで企業はコスト削減を強いられている。日本では急激な人口減少も始まった。県庁所在地の津市とほぼ同じ人口(約28万人)がこの1年で消えた。雇用難と地域社会の崩壊という難題をどう乗り越えるか。そのカギは、意外に思われるかもしれないが、障害者就労の現場にある。
一般企業などの障害者雇用率はリーマン・ショック前から一貫して上昇し、就労に縁遠かった知的障害者や精神障害者も最近は都心のオフィスで働くようになった。仕事に慣れるまで国が事業主に金銭給付をする「トライアル雇用」、障害者向けの子会社を設立して雇用率に算定できる「特例子会社」などが効果を上げているのだ。「就労移行支援事業」や「就労・生活支援センター」など福祉スタッフによる支援も福祉から就労への流れを促進してきた。
4月から、従業員数に占める障害者の割合を義務づけた法定雇用率が1.8%から2.0%(民間企業)に上がり、公的機関が障害者施設から物品購入をする「障害者優先調達推進法」も施行された。一般社員に比べ賃金が低いなど課題はまだ多いが、多様な職域にさまざまな障害者の雇用が広がっていることは評価していい。長期失業者、生活困窮者の雇用を進めるためのヒントがある。
一方、公的な補助金で運営されている福祉的就労には、最低賃金や雇用保険の加入が義務付けられる「就労継続支援A型事業」、そうした義務のない「就労継続支援B型事業」などがある。菓子作り、部品組み立て、清掃など簡易な作業が多いが、最近は大学や企業の協力を得て商品開発をし、地域の伝統産業を取り入れる事業所もある。製品の質が高く、ネット販売で高収益を上げている例も珍しくない。
千葉県香取市では地元の養豚農家と提携しハムやソーセージなどの加工品販売、レストラン経営などを行う就労継続支援A型事業所がある。都心の百貨店や高級食材店にも卸している。ほかにも地場産業である魚の干物(愛知県)、リンゴの加工品(青森県)、地ビール(石川県)、ワイン(栃木県)、チーズや昆布(北海道)など障害者就労の現場から人気商品が次々と登場している。
衰退していく地域の産業を復活させ、地元のお年寄りや主婦の働く場も創出する。収容型施設ではなく、就労を軸にした地域福祉への質的転換が地域全体に相乗効果をもたらしているのだ。もともと3000キロに及ぶ日本列島には多様な産業や暮らしがある。高齢化と人口減少が進む社会の未来をそこに見いだすことができるのではないか。
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