自閉症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、大うつ病、双極性障害そして統合失調症の5つの精神疾患に共通する遺伝的リスクファクター(危険因子)が存在する可能性が、米ハーバード大学医学部教授のJordan Smoller氏らの新たな研究で示された。将来的にはこの遺伝子多様体(バリアント)が予防や治療の重要な標的となる可能性があるという。研究論文は「The Lancet」オンライン版に2月28日掲載された。
Smoller氏によると、いくつかの精神疾患の遺伝的要素には著明な重複が認められることもわかっており、特に統合失調症と双極性障害、うつ病、またそれよりは少ないものの自閉症と統合失調症、双極性障害にも重複がみられたという。しかし、このような多様体が疾患に関与する機序は正確にはわかっていない。付随論説の著者であるイタリア、ボローニャ大学のAlessandro Serretti氏はこの知見について、疾患の分類、リスク予測、新しい薬剤治療などの臨床的応用の可能性があるが、直ちに応用できるわけではないと述べている。
今回Smoller氏らは、精神医学ゲノミクスコンソーシアム(Psychiatric Genomics Consortium)がスキャンした5つのうちのいずれかの精神疾患のある3万3,000人強および疾患のない約2万8,000人の遺伝子データを分析。その結果、どの疾患にも重複する4つの遺伝子領域が見つかり、そのうち2つは脳内のカルシウムバランスを制御するものだった。
この重複する遺伝子多様体は、成人の双極性障害、大うつ病および統合失調症のリスクを増大させる可能性があるという。さらに詳しく分析すると、脳内のカルシウムチャンネルの活性を司る遺伝子が、自閉症とADHDを含めた5つの疾患のいずれの発症にも重要である可能性が示された。Smoller氏は、この遺伝的リスクファクターは疾患を促進するリスクのごく一部を占めるにすぎない可能性もあり、現段階では診断ツールとして利用するには不十分であると述べる一方、この知見は新しい治療の開発に有用であるほか、疾患の定義や診断方法に変化をもたらす可能性もあると説明している。
別の専門家は、この5つの精神疾患にはいずれも共通する臨床的特徴および症状がみられることから、「特定された共通のリスクファクターが疾患に関連しているのか、共通する臨床症状に関連しているのかが問題である」と指摘している。別の専門家は、この知見が精神疾患を理解するうえで「重要な一歩」であることに同意し、さらに多くの遺伝子研究が実施・分析されれば、最終的には薬剤治療や予防のための新しいモデルができるだろうと述べている。
コメントをお書きください