【ひと】障害と向き合うバイオリニスト・廣澤さん【大阪】

自閉症と向き合いながらプロのバイオリニストとして活動する男性がいる。大阪市住之江区の廣澤(ひろさわ)大介さん(31)。 「みんなが簡単にできることでも、僕はできない……」。そう悩み続けた少年時代、自らの道を音楽と定め、猛練習を重ねてきた。学校や福祉施設などを回り「聴いてくれる人に希望を届けられたら」との思いをメロディーに乗せる。

  • 中程度の知的障害があった廣澤さんが、バイオリンと出会ったのは7歳の時。母親の宏子さん(68)が、友人から「左右の手の動きが違うので発達に効果があるのでは」と言われたのがきっかけだった。

 

当時は人から話しかけられても反応が弱く、病弱だった。講師からマンツーマンで指導を受けても集中力が2分ほどしか続かず、10代半ばまでは五線譜を読むこともできなかった。

 

そんな廣澤さんを変えたのは、フリースクールへの往復4時間の自転車通学。定時制高校でも卒業まで続け、「やり遂げた経験が自信になった」。大学進学後は、1日7時間の練習が普通になっていた。

 

在学中の2001年、ポーランドで開催された障害者の国際音楽フェスティバルで特別賞を受賞。以降、小学校や障害者施設からの演奏依頼も舞い込むようになった。卒業後は介護施設で働きながら、出演料をもらうプロとして活動ができるようになった。

 

しかし約4年前、急激に気力が減退する原因不明の症状に襲われた。疲労が激しく、全く弓を握れず、立っていることすら困難な日もあった。医師からは「自閉症の二次障害ではないか」と言われた。

 

それでも引き受けた演奏を休むわけにはいかない。出番直前まで控室の床の上で横になった後、なんとか気力を振り絞って舞台に立ったこともあった。

 

今も投薬治療をしながら仕事を続け、帰宅後、毎晩練習に励む。昨年は十数回のコンサートをこなした。

 

「音が美しくて眠ってしまいました」。小学生らから多く寄せられるこの感想が、自分にとって最高の賛辞だと思っている。

 

得意のクライスラーやモーツァルトなどに加え、必ず演奏するのが坂本九さんの「見上げてごらん夜の星を」。高校生の頃からのお気に入りだ。「もがきながら障害と向き合ってきたから、伝えられるメッセージがある」と廣澤さんは言う。

 

演奏の依頼などは、支援者の梅本哲世さん(0745・62・5055)へ。

 

2013.2.13 読売新聞

 

【関連サイト】

 ・廣澤大介 ウェブサイト