「帰りの会を始めるよ、ほら、みんな座って」。障害児を一時的に預かる日南市の放課後デイサービス施設「わくわく」で、施設を運営するNPO法人「さんぽ」の坂田なるみ代表(52)が声を張り上げた。帰りの会で大人気の絵本の読み聞かせ。注意欠陥多動性障害(ADHD)のある北郷小中3年須志田友博君(9)は毎日一番前の場所を陣取り、食い入るように絵本を見詰める。「絵本が大好き。物語そのものへの興味関心も強いが、ページを繰り返しめくるという行為も面白いのだと思う。興味は違えど集中力はすごい」。指導員の満行輝哉さん(24)は話す。
友博君は2011年7月、この施設に通所するようになった。学年もばらばら、ダウン症や自閉症、身体障害など障害もさまざま。いろいろな子どもたちが放課後の約2時間を共に過ごす。「じゃれ合って遊ぶうちにあちこちで言い争いや物の奪い合いが始まります」。坂田代表は集団生活を通じて、友博君に社会性やコミュニケーションの力を育んでほしいと願う。
通所し始めた当初、母一枝さん(38)は「感受性が敏感なので、できるだけ褒めて自信を持たせてほしい」と要望した。施設ではそれを受け、個別の支援計画を作成。褒めて育てること、学習のサポートをすること、社会性を育むことが大きな柱になった。
最近、一枝さんにうれしいことがあった。仕事から帰ってきた夜、疲れた表情で「あしたの仕事は大変だなあ」とついもらすと、友博君は「皆大変なんだから…」と答えた。「こんなちょっとした一言ですが成長を感じました。人の気持ちを少しずつ思いやれるようになったのかもしれない。皆大変なんだから頑張って、と背中を押してくれました」
施設が企画する遠足などのレクリエーション活動に、父浩之さん(39)も積極的に参加するように。障害児の保護者と交流する機会が増え、気持ちが少し楽になったという。「明るく前向きにわが子と向き合っている。将来に不安が大きかったけど、皆とざっくばらんに話して何とかなるだろうと思えた。これからも友博と一緒に歩いていこう。心からそう思えます」。友博君は10月、9歳の誕生日を迎えたばかり。誕生日の誓いは「算数の勉強を頑張る!」。友博君は家族に笑顔でこう宣言した。
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