つながる:ソーシャルメディアと記者 障害者アート、Tシャツに【大阪】

ソーシャルメディアを結節点に新しい価値が生まれる。その実例を先月、大阪市内で見てきた。同市内の障害者施設「コーナス」の西岡弘治さんらの作品をベースに、東京のファッションブランド「NUDE:MM」が作ったシャツやTシャツの展示会だ。大阪の小さな施設で描かれた障害者アートがモードとつながり、各国のバイヤーも相手に販売へ打ってでる。異色の組み合わせ、きっかけを作ったのはフェイスブックだ。

西岡弘治さん
西岡弘治さん

大阪市の広告業、笠谷圭見さん(43歳、http://www.pr-y.org/)は長男が軽度の自閉症と診断されたことをきっかけに、福祉や障害者アートの世界を知る。コーナスを拠点に写真集を作ったり、彼らの作品をフェイスブック上にアップしたりしていた。そこに「NUDE:MM」のデザイナー、丸山昌彦さんから「Tシャツにしたい」とコメントが付いたことが始まりだった。この時、丸山さんは作品の背景も、誰が描いたかも知らない。

 

笠谷さんは東京の事務所に行き、丸山さんと直接交渉した。2人が目標にしたのは「同情を求めず、安直なデザインではなく、何も知らない人でも思わず手に取りたくなるようなものを作る」こと。障害者アートが多くの人の目に触れ、知ってもらう機会にすることを重視した。コーナスの関係者も取り組みを後押しした。大阪での受注会だけで60人以上からオーダーがあり、パリでも展示会を開いた。東京の有名セレクトショップからの注文も届いている。まずは成功だろう。

 

福祉や障害者を巡る世界では、「こんな困難な人が描いたアートが素晴らしい」といった、美談に話題が集中してしまいがちだ。これだけでは業界や関係者の外にまで価値は広がりにくい。今回の展示会で重要なのは、2人が市場で堪えうる商品を強く意識したこと、広告やデザインといった専門分野で培った知恵を出し合って形にしていったことにある。こうした取り組みの積み重ねで社会はもっと豊かになる、と私は思うのだ。

 

2012.12.22 毎日新聞

 

【関連サイト】

 ・障害者アート:その感性、世界注目 大阪・阿倍野の施設で活動、自閉症男性の絵がシャツに パリで展示、6カ国から受注(2012.10.22 毎日新聞