知的障害者の現実をユニークな視点で表現した自主制作映画「39(サンキュー)窃盗団」が17日から、川崎市麻生区の市アートセンターで上映される。監督・脚本は、同区の日本映画学校(現・日本映画大学)出身の映画プロデューサー押田興将(こうすけ)さん(43)。実弟でダウン症の清剛(きよたか)さん(35)を主役に起用、もうひとりの弟の大(ひろし)さん(37)を介添え役に配し、重いテーマを明るい作風に仕上げた。
「サンキュー」は、心神喪失者の行為は罰しない、心神耗弱者の行為は刑を軽減する――と定めた刑法39条を指す。軽い知的障害のあるヒロシ(大)はオレオレ詐欺の現金を引き出す「出し子」をやらされ、刑務所を出たり入ったりしている。ある日ボスが、「お前の(ダウン症の)兄貴(キヨタカ=清剛)は39条があるから刑務所に入らなくてもいいんだ」と盗みをそそのかす。同級生も加わった知的障害者3人で繰り広げる泥棒行脚を、兄弟愛を軸にほのぼのと描いている。
興将さんは横浜市出身。8人きょうだいの長男で11歳の時、3歳の清剛さんに障害があることを知った。学校で暴力をふるうなど荒れていた自分に対し、清剛さんはじっとしているだけで周囲から愛されたという。高校中退後、日本映画学校(当時は専門学校)に入った。人間への鋭い観察眼で描く「重喜劇」と呼ばれるスタイルを確立した名匠・今村昌平監督(故人)と出会い、薫陶を受けた。「自分の人間観に向き合うために弟のことを映画にしなくては」と決心した。
構想に15年を費やし、様々な事件の裁判を傍聴した。知的障害者は、裁判官の質問の意味が理解できないまま、「はい」と答えることが多く、39条は適用されず有罪になるケースをいくつも見てきたという。作品では、彼らの立場を描きながら「障害とは何か」を問いかけている。
自主制作だが、ベンガルさんら著名な俳優も出演。撮影は2009年6月から川崎市、福島、栃木、山形県などで1年間行われた。清剛さんは不機嫌になり動かなくなることもあったが、大好きなコーラを飲むと元気を取り戻し、主役を演じきった。興将さんは「幼い頃から変わらずチャーミングな清剛の姿を見てもらえれば」と話している。
上映は12月21日まで。副音声ガイド、日本語字幕、託児サービスもある。チケットは一般1500円、学生1300円、シニア1000円、高校生以下800円。問い合わせは、川崎市アートセンター(044・955・0107)へ。
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