東大、自閉症関連分子「Neuroligin」が脳神経細胞シナプスの制御メカニズムに関わることを発見

東京大学大学院薬学系研究科の富田泰輔准教授、鈴木邦道大学院生、松木則夫教授、福山透教授、同 大学院医学系研究科 岩坪威教授、慶應義塾大学医学部の堀内圭輔特別研究講師、京都大学再生医科学研究所の瀬原淳子教授、独キール大学のPaul Saftig教授らのグループは共同で、脳神経細胞シナプスの制御を行う新規メカニズムを発見しました。

シナプスは神経活動に応じて結合様式や形を変えることが知られています。シナプス形成の異常は自閉症などの精神性疾患の原因となることが知られており、現在、シナプス形成に関わる分子の特定が盛んに行われています。しかし、いまだ不明の点が多く、特に、神経活動からシナプス形成までの一連の流れについてはほとんど調べられていませんでした。
 

研究グループは、シナプス形成に必須の分子であり、自閉症の発症と関連が示されているシナプス膜タンパク質Neuroliginに着目しました。そして、まず興奮性の神経活動によって、タンパク質切断酵素であるプロテアーゼが活性化しNeuroliginが切断を受けること、その結果Neuroliginの量が減少して、神経細胞シナプス形成が制御されるという一連の流れを見出しました。また切断現象の責任プロテアーゼとしてADAM10とγセクレターゼの関与を明らかにしました。
 

本研究成果は、プロテアーゼによる、シナプス膜タンパク質切断がシナプスの形成と機能を制御している可能性を示した点で重要です。シナプス形成に関わる分子自体が、そもそもどのように制御を受けているのかを調べ、神経活動からシナプス形成までの全体像を初めて明らかにした成果です。今後、シナプス形成に関わる分子ではなく、その量を決めるプロテアーゼが、自閉症治療薬開発の重要な創薬標的分子となりうることも示唆されます。
 

本研究成果は、2012年10月18日に米国科学雑誌「Neuron」に公開されます。なお本研究は科学技術振興機構、文部科学省科学研究費補助金、細胞科学研究財団などの助成を受けて行われました。

 

2012.10.19 日本経済新聞