「青春時代って何歳から何歳までだと思います?」「私は中高生ぐらいをイメージしますね」「そうそう。文化祭で盛り上がったり――」
向き合って座る2人がにこやかに話している。今月中旬、発達障害の当事者で作る会「イイトコサガシ」が東京都内で開いた集まり。コミュニケーション能力を高めようと、主に20~30歳代の発達障害者ら12人が参加した。直前に「青春」というテーマを与えられ、会話する。「興味がない」「知らない」は禁句だ。
5分間の会話が終わると、見ていた他の参加者が、「うまい具合に次の会話を引きだしていた」「身ぶり手ぶりを交えた話し方が伝わりやすかった」などと良かった点を探して次々と褒めていく。批判やアドバイスはしない。
「発達障害の人は自分のことばかり一方的にしゃべるなどして失敗しがちです」と、主宰者の冠地情(かんちじょう)さん。アスペルガー症候群と注意欠陥・多動性障害の当事者だ。集まりは、これまでの生活で叱られたり注意されたりして失った「自己肯定感」を取り戻す狙いもある。「楽しく会話のスキルを身につけ、自信をつけてほしい」と冠地さん。
同会の活動にアドバイザーとしてかかわる臨床心理士の南和行さんは「同じ立場の人が安心して参加し、発言できるのが当事者会のメリット。リラックスした雰囲気だから効果も高まる」と話す。
同会は2009年に発足、こうした集まりを約280回開いてきた。ユニークなのは発達障害以外の人でも参加できる点。コミュニケーション不足は社会全体の課題で、障害の有無を超えて、お互いの接し方を考える機会にしたいという思いからだ。
発達障害の当事者会は各地で増えている。形態は様々で仲間同士の「居場所」としての機能を重視しているケースや、講演会などを企画して啓発に力を入れている団体もある。
発達障害者の就労支援活動をする「Necco(ネッコ)」(東京都新宿区)が月2回開いている「当事者研究会」は、「自分をどう表現するか」をテーマに据える。
会を主宰する綾屋(あやや)紗月さんを進行役に「部屋の片付け」「恋愛」「自分一人の時間と空間」などについて自分の状況を説明したり考えを表明したりする。あらかじめ発表者を決めている場合も参加者がランダムに話す場合もある。
アスペルガー症候群の綾屋さんは「コミュニケーションの行き違いで、不利な立場に置かれるのは発達障害者の側。障害の特性も含め自分を『研究』し、説明できるようになれば、もっと生きやすくなるのではないか」と語る。
当事者会のネットワーク作りを模索する動きもある。「熊本県発達障害当事者会Little bit」は福岡県や宮崎県の団体と月1回、交流会を開催。東京を拠点とする「イイトコサガシ」や北海道の団体とも交流している。
同会顧問で精神保健福祉士の山田裕一さんは「多様な目的や意義を持つ当事者会がつながり、1人が複数の団体を行き来できるのが理想。しかし、現実は会場の確保にも苦労しており、行政などの支援がさらに必要だ」と話す。
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