横浜市のビルの一室。20代の男女が集まり、パソコンを使った職業訓練を受けている。発達障害者の特性を生かした就労を後押しする民間会社「Kaien(カイエン)」が、同市などから受託したモデル事業の一幕だ。
訓練では、インターネット上に古着店を出店。受講生は、上司役のスタッフから指示や助言を受けながら商品の検品や代金の管理などを行う。対象は、発達障害の「可能性」のある人まで広げている。
同社は2009年に設立。東京都内で発達障害者向けに、パソコン入力やプログラミング、面談などの訓練を行い、就職先探しも手がける。これまでに訓練生の約8割にあたる66人が就職し、職場定着率は9割以上という。
発達障害者には、集中力が高く、数字や文字情報に強い人も多い。その特性を生かし、ウェブサイトのデザインや、ネット掲載情報のチェックなど、IT系の仕事に多く就いている。「訓練を通じ自分の強みや弱みに気づいてもらったうえで、どんな仕事を選ぶか考えていきます」と社長の鈴木慶太さんは話す。
3月から受講している男性(25)は、大学時代に広汎性発達障害と診断された。「計算が得意なので経理部門などが希望。簿記などの資格も取得したい」と意欲をみせる。
一方、民間企業が、障害者雇用のために設立した「特例子会社」が、発達障害者を受け入れる動きもある。
東京海上グループの特例子会社、東京海上ビジネスサポートでは、障害を持つ社員82人のうち、発達障害かそうした特徴のある人が過半数を占める。パソコンで顧客アンケートなどをデータ化し分類するなどの作業を主に行う。
指導員の内藤恵子さんは「口頭では指示が十分に伝わらない場合もあり、文書で示して理解しやすくしています」と話す。入力作業の早さは予想以上という。
発達障害者が力を発揮するには周囲の配慮が欠かせない。札幌市は、広汎性発達障害に対して職場で配慮すべきポイントをまとめた冊子を2010年に作成、事業所に配布している。「適当な指示ではなく見本をみせる」「手順をはっきり説明する」「仕事の種類を一つに絞る」といった8項目をイラストで説明する。
同市でオーダーカーテンの製造販売をする「リビングサプライ」には発達障害の従業員が1人いる。同僚は、冊子で「一人でいるほうが緊張から解放され疲れがとれることがある」という項目を読んでから、昼食などに無理に誘わないようにした。「誘われて苦痛に感じる時もあったと後で明かされた。知っておくべきことが多いと痛感した」と社長の奈須野益(ゆたか)さんは話す。
発達障害者の就労は依然として厳しい。発達障害に理解のある職場は少なく、診断を明かさずに就職活動している人も多い。企業が法律で義務づけられている障害者雇用には障害者手帳を持っていることが条件だが、知的障害がなく二次的な精神障害も軽微だと判断されれば取得できない。
川崎医療福祉大特任教授の佐々木正美さんは「発達障害の特性を理解した上で仕事をしてもらえば、彼らはすばらしい能力を発揮する。それを生かせないのは、大きな損失であることに社会全体が気づくべきだ」と指摘する。
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