「職場ではいつもどなられ、つらい日々でした。学習障害(LD)と分かった時は、逆にホッとした」。宇都宮市の男性(47)はそう話す。LDの診断を受けたのは41歳。うつ病で受診した病院で初めてLDという言葉を知った。 「学校の勉強は全然できなかった。のんびりした時代だったから、やり過ごせたのかもしれません」。高校卒業後に就職、公園などの保守をする部署に配属された。しかし業務を指示する文書を手渡されても内容が理解できない。「やる気があるのか」「自分で考えろ」。叱責される度に頭の中が真っ白になった。
男性は現在休職中で、栃木県若年者支援機構が運営する発達障害者向け学習支援塾で勉強し直している。読み書きは小学5年生、算数は九九の段階。塾長の中野謙作さんは「彼は会話もスムーズで、一見、障害は分からない。仕事の失敗を性格の問題にされてきたのです」と話す。
大人の発達障害の診療を続けている「ランディック日本橋クリニック」(東京)院長の林寧哲(やすあき)さんは「発達障害は、知的な遅れを伴わないケースも多い上、障害の軽重や表れ方に個人差がある。気付かぬままに幼児期や思春期を大過なく過ごす例も多い。周囲も、本人の性格や努力不足ととらえがち」と指摘する。
例えば「自閉症スペクトラム障害」の中には、「場の空気を読む」といったコミュニケーション能力などに障害を抱えているが、知的障害も言語発達の遅れもない人がいる。職場などで「身勝手」といった人物評に陥りがちだ。
厚生労働省のまとめでは、全国の発達障害者支援センターに相談にきた19歳以上は2010年度に1万8619人。05年度の2932人から大幅に増えた。同省発達障害対策専門官の小林真理子さんは「職場の評価や処遇が厳しくなる傾向があり、その環境にさらされ続けた結果、『自分は発達障害かもしれない』と思い至る人が増えているのでは」と話す。うつ病などの診療で、発達障害が判明する例も多くなっている。
アスペルガー症候群の当事者として講演活動を続ける高森明さん(37)は、26歳の時に診断を受けた。自らを「『健常』と『障害』のはざまを漂流している存在」と表現する。
臨機応変な行動に難があり、大学時代のアルバイトでは口頭での指示に対応できず苦しんだ。大学院修了後に就いた仕事では、上司の交代や労働条件の変更に適応できず、体調を崩して退職した。
発達障害は、発達に凹凸がある障害で、優秀と評価される人も多い。一方、専門家への相談や受診、職場などの配慮が必要なケースもある。「まずは、私のような発達障害者が大勢いることを社会全体に知ってもらいたい」と高森さんは話す。
コメントをお書きください