世界には1~3%の知的障害の子どもがおり、その半数は知的障害を持っていない両親から生まれてきます。これまで知的障害の主要原因は遺伝であると考えられてきましたが、新たな研究によって知的障害のない両親を持つ知的障害児は、両親から劣性の遺伝子を受け継いだのではなく、子どもの遺伝子において新たに発生したランダムな突然変異によるケースが多いということがわかりました。
この研究はスイスにあるチューリッヒ大学のAnita Rauchさんを中心に行われたもので、知的障害の根本的な原因を理解する第一歩であるとのこと。知的障害はIQ70以下を記録し、健康上も大きな問題となるのですが、原因を理解することは新たな治療法の開発に役立つはずです。
人は親から全てを遺伝するのではなく、DNAの一部が削除されたり複製されたりといったような、両親に見られないDNAの偶発的な変化や、新しく発生した突然変異の遺伝子を持って生まれます。多くの場合、このような変化は遺伝子の重要な部分では起こらないため人にもあまり影響を与えないのですが、場合によっては認識の発達に影響を与え、遺伝子の機能を傷つけるといったような深刻な結果を引き起こすこともあります。今回の研究で、散発性の知能発達の多くは遺伝ではなく不運な偶然によるものが大半であることがわかったのです。
Anita RauchさんらはIQ50以下の結果を持つ知的障害の子ども51人のエキソーム配列解析(DNAの部分集合であるエキソームの欠損などを読み取る方法)を行い、これらを知的障害を持たない彼らの両親のものと比較しました。この時、知的障害を持たない子ども20人についてもエキソーム配列解析を行い、子どもの両親のエキソームと比較しました。
結果、知的障害を持たない子どもと比べて、知的障害を持った子どもはわずかに新規突然変異が多かったことがわかりました。Nature誌では最近、父親の年齢が新規突然変異の数に大きく影響するということが発表されており、知的障害の子どもに見られる新規突然変異も彼らの父親が高齢だったことが理由と考えられますが、それよりも重要なのは、子どもたちのDNAのどの部分が新規突然変異を起こしていたかということです。
「知的障害を持つ子どもはそうではない子どもより新規突然変異が少し多いのですが、もっと重要なことには、深刻な結果をもたらす偶発的な突然変異が多いということです」とRauchさんは語りました。新規突然変異は知的障害と関係している11の遺伝子で見られ、障害を引き起こしている可能性のある6つの遺伝子も被験者の55%に見られました。
突然変異によって影響を受けている他の遺伝子の役割はまだ明らかになっていないため、
新規突然変異によって引き起こされる知的障害は55%以上になる可能性があると研究者たちは推測しています。今回の研究が発表される前は遺伝が知的障害の主要原因だと考えられていたのですが、この結果は親から子どもに不完全な突然変異の遺伝子が受け継がれるというケースは少数であることを示している、と共著者であるドイツにあるカールス大学のAndre' Reisさんは言います。
これは9月27日にLancet誌で発表されたもので、Reisさんさんは同誌に「これからの研究はさまざまな遺伝子の欠陥の根源にある正確なメカニズムの解明に取り組まなければなりません。それはきっと新たな治療法の発見につながるはずです」と語った、とのことです。
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