愛知県立みあい養護学校(河合千丈校長)では、若手教員が中心となってiPadやiPod等タブレット端末を始めとするICT環境の効果的な教育活用について取り組んでいる。8月10日、同校で「タブレット端末活用講座」が開催され、特別支援教育に関わる教育関係者が県外を含め約100人参集、iPadやタブレット端末をより有効に活用するために使用したアプリ等の体験が行われた。
同校の河合校長は出張先の松江市からiPhoneのFaceTimeを使って参加者にあいさつした。
特別支援に携わる教員が参集した |
「特別支援教育は、まず児童に興味関心を持たせることから始まる。児童のiPadへの強い興味関心を教育効果に活かす試行錯誤が本研究の始まり。その結果、実態に合わせた使い方と工夫により効果が上がることがわかってきた。今日はその成果の一端を興味ある先生方と共有したい」と話した。
同校は平成21年度に設立した知的障害のある児童生徒のための養護学校だ。新設校らしく明るく開放的な校舎で小中高全215名の児童生徒が学ぶ。今回タブレット端末の研究に取り組むため、小学部の教員7名が、第37回パナソニック教育研究財団の助成金に応募した。助成金でiPadやiPodを購入、「携帯情報端末を使った自閉症児のコミュニケーション支援」をテーマに研究を進め、さらに次年度はより広い活用のため「特別支援学校におけるタブレット端末の活用」を研究テーマとし、同助成の支援を引き続き受けている。
同校児童は自閉症児が約66%を占めており、iPadを活用したところ、強い関心を示す児童は55%、注目する児童が21%であった。また、76%の児童はロック解除でき、85%の児童がアイコン選択できたことから、重度障害児でも操作できる可能性が高いと判断。初年度は、発語のない自閉症児におけるコミュニケーション支援としてiPad等端末とコミュニケーション支援ツールを活用した。
iPadを使って自動券売機(左)を作成、校外学習 |
意思表示と発話を支援
ひとつは愛知工業大学鳥居研究室が開発したコミュニケーション支援ツール「ねえ聞いて」で、これは自閉症や失語症などコミュニケーション障害のある児童がスムーズに意思を伝えることができるよう、何をしたいのかシンボルを選択、提示することで自分の意思を伝えることができる。同校では、給食の時間に食べたいものを提示したり、工作活動で次に何がしたいのか、何色のどんな材料が必要なのかを提示、
意思を伝えることから活用。「伝わる」実感と安心感の繰り返しから、次第に簡単な要求は身ぶりで伝え、身ぶりで伝えにくいことは、iPadを使ったり、文字で伝えたりするようになった。また、選択するとアプリから「○○がしたい」「○○を下さい」等音声も出るため、児童がその音声を繰り返すことでごく自然に発話訓練につながった。音声の繰り返しが容易にできることから、発声が短期間で明瞭になってきたという。
「ねえ、きいて」は国内外あわせ約1万のダウンロードされており、開発した鳥居准教授は、「学校からの要請を受け研究の1つとして開発に着手したが、メガネや補聴器並みに必需品化していると感じる」と話す。
ICTツールは必需品
離籍率が減少
「ねえ、聞いて」は、カテゴリ(左)からシンボル
を選んで意思を伝えることができる(右)。 障がい者を支援する「サポーターモード」 と障がい者本人が使う「セルフモード」がある。 http://ne-kite.com/ |
平成24年度には生活支援にも端末活用を開始。様々な工夫により授業では離籍率が格段に減少し、生活場面ではできることが増えた。
その日一日しなければならないことを登録、チェックできる「はなまるアプリ」(同研究室制作)を活用。終わると「ハナマル」がもらえ、全て終了すると「よくできました」とほめてくれるアプリだ。慣れるに従い連絡帳や上履きなど持ち物確認、トイレなど帰り支度をチェック、児童1人で見通しを持って時間に間に合うよう登校準備ができるようになったという。
このほかにも、様々なシーンでiPadを活用している。
学校の洗面所にはiPadを壁に設置、はみがきアプリや手洗いアプリの音声やアニメーションに従って、歯磨きや手洗いをする。ラジオ体操アプリで、みんなで体操をする。音楽では、キーノートを使って画面つき歌詞を作成した。自学支援ではゲームアプリで掛け算学習を自分のペースで繰り返すことで、約1か月でテスト結果が平均40点から100点にまで伸びた。校外学習支援として、iPadを使って電車チケットを購入するという体験学習も行った。余暇支援では、iPadを使った遊びも選択できるようにしたところ、タイマーの活用で順番を待てるようになる、iPadを中心に皆が集まり、コミュニケーションがとれるようになる、iPadを職員室に借りに来る際に礼儀正しく落ち着いてふるまえるようになるなどの変化が見られた。
同年は「魔法のじゅうたんプロジェクト」にも応募、これによりiPad2台の貸与(1年間)も受け、こちらはiPadの「持ち帰り学習」に取り組んだ。
自己肯定感を高める効果も
同校情報研究部主任の中西教諭は、iPadを選択した理由について、触るだけで反応するため知的障害児にも因果関係が理解しやすいこと、ソフトはAppStoreで管理されているためセキュリティ管理の手間がかからないこと、iOSであれば複数の異なる端末でも同じ環境を設定できることの3点を挙げた。
また、教員の意欲や積極性が高いほど子どもの変化は顕著であること、好ましい変化は年齢が低いほど顕著に見られ、「できない経験が繰り返されることであきらめてしまう児童の率が増える。使うことに終始するのではなく端末への興味関心を豊かな発想につなげ、自己肯定感を高めることができるよう教育効果が上がる方法の研究が必要であり、それには教員の意欲が土台になる。今後も、できる、わかる、楽しいを実感できる実践を積み上げていきたい」と報告した。
ワークショップでは、iPadのアクセシビリティ機能についても体験した。テキストを大きくしたり、読み上げ機能を使ったり、肢体不自由児を想定し、「1本指でも2本指操作として認識する機能」を使えば拡大や縮小が1本指でできるなどの操作体験、特別支援教育用アプリ「ねえ、きいて」「はなまる」(以上愛知工業大学情報学部鳥居研究室)、「たすくスケジュール」「たすくコミュニケーション」(以上たすく(株))、「トーキングエイドシンボル版」「トーキングエイドテキスト版」(以上(株)ユープラス)の体験も行った。
【関連サイト】
・別支援とICT そしてFS仕分け―富山大学 山西潤一教授(120702)
・特別支援のICT活用】千葉県立仁戸名特別支援学校・大阪府立寝屋川支援学校(120402)
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