第2回 障がい者を活かす好事例【JAPAN】

中小・ベンチャー企業にとって障がい者を活用することは困難がともなうことなのでしょうか。実はそんなことはなく、むしろたいへん貴重な人材資源となり得るのです。

 

例えばある飲食企業のこんな事例があります。

一般的に飲食店には、人件費をいかに抑えてなおかつお客様の満足をいかに維持するかという相反する課題があります。接客等に関しては人件費を抑制しながらでも何とか取り繕うことも可能ですが、無理を強いると清掃のような業務に顕著に表れてしまいます。隅々の細かい部分等はつい疎かになりがちになります。人件費抑制のつけは隅々の掃除や整理整頓にまわってしまいます。

 

あるとき、その飲食企業は複数の障がい者を採用してチーム編成し、オープン前の準備のためになかなか着手できない個所の掃除を彼らの業務と取り決めました。その結果、店舗のCS維持を解決しつつ、同時に障がい者法定雇用率も達成できました。ちなみにこのチームのメンバーは、一般的に採用が難しいと思われている知的障がい者でした。知的障がい者は、複数の業務や思考の解決には時間を要するとされますが、その一方で定められた単一業務に対しては大きな集中力を発揮するという特徴があります。実際、その店舗の清掃でも、他の社員やアルバイトより範囲は狭いものの、極めてクオリティの高いクレンリネスの結果を継続的に出しています。

 

オフィス内の事務職関連でも、彼らは力を発揮します。総従業員数100名規模のある中堅人材サービス企業では、人事・総務・経理等の部署の区別がなくルーティンワークが膨大となっている現状がありました。バックオフィスの人員は少数精鋭であり、コスト面を鑑みても通常社員の新規補充は困難でした。そんな状況でしたが同社は障がい者を採用し、オフィス内のシュレッダー、データ管理、清掃、ファイリング、備品管理などの業務を身体障がい者・精神障がい者等4名のチームで実施しました。

 

身体障がいの従業員の中にはパソコンスキルの修練を続けている人も多く、標準的な事務用ソフト(文章や表作成等)を駆使した業務に関しては非常に高いクオリティのアウトプットをします。また、精神障がいの従業員も、元来は健常者として仕事に従事していたところ後天的に発病した人が多く、ビジネスの基礎が身に付いているので即戦力として大活躍される人が多いようです。

 

同社の事例のポイントは複数人でチームを組んだことです。4人いることにより、互いに声をかけあい、体調不良時の交代などチームワークを発揮して業務に取り組んでいます。その結果、同社も法定雇用率を維持しつつ、社内のルーティン業務を分散でき、労働生産性の向上につなげることができました。

 

「3つの困難」と称される障がい者活用の典型的なハードルとして「教育の困難」「仕事を作り出す困難」「採用の困難」がありますが、前の2つの困難は既述の記事例のように適材適所の考え方で思いのほか現実的にクリアできます。そして今後も想像以上に活躍、貢献することでしょう。

 

もちろん、配慮を要する部分もあります。例えば既述の飲食企業のケースでは、真夏に清掃を行っていた時、業務に集中するあまり脱水症状の一歩手前になるまでフラフラになりながら清掃を続けていた人がいました。前述のように知的障がい者は往々にして、単一業務に従事している際に優れた集中力を発揮しますが、その結果、自身の体力の限界を超えても業務を遂行してしまうことが無きにしもあらずです。そこで同企業では、以後は当該業務において1時間に1回5分間の水分補給休憩をルーティンとする仕組みを徹底して解決しました。

 

このように若干のケアは必要ですが、それも常識レベルの労務管理体制といえ、決して肩肘張った特別な対応が必要なわけではありません。丁寧で継続的な労務管理を心がけることが一番よいことなのです。

 

コメント: 0 (ディスカッションは終了しました。)
    まだコメントはありません。