平成23年11月の厚生労働省の発表によると、民間企業の障がい者雇用状況は実雇用率が1.65%で、法定雇用率1.8%を達成している企業は45.3%であり、雇用数としては36万6,199人と過去最高で推移しています。しかし、水準向上を牽引しているのは常用雇用者数が300人以上の中堅-大手企業であり、56-100人未満の民間企業の障がい者雇用率は1.40%、100~300人未満の民間企業のそれも1.36%と、いわゆる中小企業では障がい者雇用がなかなか進んでいないといえます。
実際に、障がい者雇用の話題になると、多くの中小企業・ベンチャー企業の経営者からはこういう声が聞かれます。
「社会貢献も大切だが、それよりも先にまず目の前の売上/利益/キャッシュ・フローのことで精一杯」
「しっかり経営基盤が固まり、規模を拡大して余裕ができたのちに、そういったことにも企業として目を向ける時期が来ればいい」
これらの声に共通しているのは、障がい者雇用を現実の課題としてではなく、なにか別次元の「社会貢献」といった感覚で捉えていることです。ところが、こういった中小・ベンチャー企業の実態とはうらはらに、実は法改正における障がい者雇用義務の現実がすぐ身近に迫っているのです。このテーマにおいては、中小・ベンチャー企業側の感覚と社会の要請とが圧倒的に乖離しているように思われます。
長引く不景気で従来以上に雇用拡大が遅れる中小・ベンチャー企業の厳しい現実を尻目に、障がい者雇用促進に関する法整備は年々強化が進んでいます。企業に義務付けられる障がい者の法定雇用率は、平成25年4月には現在の1.8%から2.0%に引き上げになります。従業員50人以上の事業主は1人以上の障がい者を雇用する必要があります。業種業態にもよりますが、従業員50名といえばまだまだ創業期、せいぜい成長期にさしかかりつつあるステージで、事業も人材も組織もすべて未成熟、1人ひとりがフル回転してなんとかやりくりしている状態でしょう。
そんな中小・ベンチャー企業が、障がい者を雇用しその状況をハローワークに報告する義務を負うのです。一定以上の企業については、罰則というわけではありませんが、法定雇用率を下回る人数に応じて定められた障がい者雇用納付金を納めなくてはなりません。そもそも、この法定雇用率を算定する分母となる常用雇用者数の定義が平成22年7月に強化されています。従前は、パート・アルバイトの方に多い短時間労働者(週所定労働時間が20時間以上30時間未満)はノーカウントだったものが、当該短時間労働者も算定対象に含むようになり(0.5人分)、パート・アルバイトを多用する業種で、実質的に大幅な拡大がされました。さらに、前述の障がい者雇用納付金制度の適用範囲についても、従前の「200人以上常用雇用数のいる規模の企業」という基準が、平成27年からは同100人規模の企業に適用拡大されます。
このように、ただでさえ雇用環境の厳しい中小・ベンチャー企業において、義務化が強化される障がい者雇用をどのように捉え、また活かしていくべきなのでしょうか。次回以後、いくつかの事例をもとに考察していきます。
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