障害ある子 社会広げる 【三重】

「僕の選んだニュースは、『耐風傘』の記事です。強い風にも耐える傘だそうです」

台風の迫る6月半ば。知的障害や自閉症の生徒が学ぶ三重大学付属特別支援学校(津市)の高等部B組では、藤井慎平君(16)が、自分が選んだ地元紙の記事を紹介していた。他の生徒たちが面白そうに、慎平君のスクラップ帳をのぞき込む。昨秋から続く朝の会の光景だ。

慎平君は中度の自閉症。担任の逵(つじ)直美教諭(53)が新聞に着目したのは、「社会に接する機会が少なくなりがちな子たちに何かきっかけを与えたい」と考えたからだった。慎平君の母親の滋子さん(48)に働きかけ、昨年9月、親子での記事スクラップが始まった。

 

滋子さんは、「この子が新聞記事を理解できるだろうか」と半信半疑だったが、進めるうち、様々なニュースや写真に関心を持つ慎平君の感性の豊かさに気づかされたという。1か月後には徐々に自分で記事を選び始め、旅先で「アライグマ 生息域拡大」(5月30日の読売新聞横浜版)の写真を切り抜いた頃からは、ほぼ自分で選ぶようになった。

 

「祭りやマラソン、健康などのニュースが好き」と慎平君。切り抜いた記事の場所に一人で出かけるなど、行動範囲も広がっている。滋子さんは、「今は記事選びを楽しんでいる。楽しいことを記事を通して見つけ、豊かな人生を送らせてあげたい」と話す。

 

同学級の8人は障害に幅があるが、慎平君の発表を聞くうちに「私もやってみたい」と声が上がり、今では慎平君を含め3人が毎朝、発表する。文章の構成や発表の仕方なども徐々に腕を上げ、最近は、校外学習の感想文を担任とまとめ、初めての学級新聞を全員で作った。

 

同校では卒業後、就職を希望する生徒も多い。逵教諭は、「認知障害があるから興味・関心がないというのは間違い。新聞を使った授業は社会を広げるきっかけになる」と効果を強調しつつ、「何より少しずつ、生徒たちに自信がついているのがうれしい。さらに生徒のアイデアを引き出して、いろんなことに挑戦してみたい」と語る。

 

子どもの「可能性の芽」を新聞を使って伸ばす試みが、特別支援教育の現場で広がっている。

 

2012.8.9 読売新聞