障害者雇用が変わる。厚生労働省の労働政策審議会は民間企業の法定雇用率を現在の1.8%から2.0%へ引き上げる案を答申した。障害者雇用を義務づけられる企業も「従業員56人以上」から「50人以上」となり、9000社以上増える。国や地方自治体などの法定雇用率は2.1%から2.3%へ、教育委員会は2.0%から2.2%となる。
また、雇用義務の対象を身体障害者と知的障害者だけでなく精神障害者を加えること、国連障害者権利条約で定められた職場の「合理的配慮」を企業などに義務づけることを同省検討会は提案し、来年の通常国会に改正法案が提出される予定だ。
企業にとっては厳しい内容に思えるかもしれないが、リーマン・ショック以前から障害者雇用は少しずつではあるが着実に伸びている。特に知的障害者や精神障害者の伸びが著しく、大企業が障害特性に合った労働内容の特例子会社を作って受け入れるケースが目立つ。就労を柱にした障害者自立支援法の影響も大きく、精神障害者の求職者数は急増している。今回の制度改革は当然だ。
ただ、障害特性を理解しないまま厳しい指導を繰り返したり、人間関係の調整にまで配慮が行き届かないためにストレスがかかり離職するケースが多いことも指摘しなければならない。障害者雇用に熱心な会社で働いていた発達障害者がストレスから自殺し、訴訟になった例もある。雇用率だけでなく、定着率や「質」が一層問われることになるだろう。
「合理的配慮」とは企業の過重負担にならない範囲で個々の障害特性に合った職場環境や支援を提供することだ。独特なコミュニケーション、ものごとの順序や特定のものへのこだわり、感覚過敏などがある発達障害に配慮した環境や支援技術を備えた職場はまだまだ少ない。合理的配慮は単に負担ではなく、障害のある従業員の労働能力を十分に引き出すためにこそ必要なのである。
現在は雇用率未達成企業が国に支払う納付金が、達成企業への報奨金や補助金の原資にされている。処遇の難しい障害者を積極的に受け入れている企業への補助金などはもっと手厚くした方がいい。納付金制度の拡充だけでなく、一般財源からの支出も考えてはどうか。福祉サービスを受けて生活している障害者が就労すれば、福祉側の負担がその分だけ軽くなる。
これから発達障害や精神障害の従業員は確実に増えていくことを考えると、ハローワークや就労・生活支援センターの援助機能をもっと高めなければいけない。就労移行事業所など福祉分野の資源も動員して働く障害者の支援に乗り出すべきだ。
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