障害児プリティーヘア【秋田】

障害のある子どものヘアカットに、NPO「福祉理容美容協会 ほわいと」が取り組んでいる。料金は500円のワンコイン。美容室に行くのをためらう障害児の親がいるなか、代表で理容師の岩見谷真広さん(37)は「おしゃれする気持ちを大切にし、子どもたちを可愛く、格好良くしてあげたい」。取り組みは、岩見谷さんが経験したある出来事がきっかけだった。

 

カットは岩見谷さんが店長を務める秋田市中通6丁目のヘアーメイクサロン「AKAISHI」で奇数月の第3日曜日に行われる。秋田市の栗田養護学校の中学3年加藤絵美瑠さん(14)は、家族と訪れる。ほわいとのメンバーの理容師らが「こんにちは。絵美瑠ちゃん髪伸びたね。今日はどうしようか」と笑顔で迎える。

 

絵美瑠さんは学校に紹介され、2カ月に一度、ヘアカットに来る。「気持ちいい」「どんな風になるのー」などと話す絵美瑠さんに、スタッフは「動かなくてえらいねー」「これくらい切ろうか」。

 

祖母に髪を切ってもらっていたが一度だけ、市内の美容室へ行った。発達に遅れがあり、人見知りをしない絵美瑠さんは話し続けるが、美容師はうまく答えられない。母親の愛さん(36)は「会話が続かず、2人とも大変そうだった」。ほわいとだと自然に会話ができる。愛さんは「同じことを繰り返す娘に嫌がらずに対応してくれる。通いたいと思った」。AKAISHIの前を通ると絵美瑠さんは必ず、「ここ、絵美瑠の美容室!」

 

秋田大教育文化学部付属特別支援学校中学部1年の榎睦美さん(12)も常連だ。家では毎回、ヘアカットの日に印をつける。父親の信孝さん(55)は「カレンダーを見て楽しみにしている。次の日は学校の先生に、髪を切ったねと言われるのがうれしいみたい」と話した。

 

岩見谷さんが障害児のヘアカットを始めようとしたきっかけの一つは、小さい時からお店に通ってくれていた男の子が、突然の病気で障害が残ったことからだった。「もう一度、かっこいい髪形にしてあげたい」と思った。

 

2009年11月に始めたが、しばらく誰も来なかった。個人では難しいと思い、翌年6月にNPO法人を設立。岩見谷さんの思いに賛同した仲間がメンバーになった。理容ボランティアの日には5人ほどのスタッフで15人程度の子どもたちに対応する。

 

訪れる子どもの半数は重度の障害児だ。寝たきりの子もいる。車いすを鏡の前まで押し、抱き上げ、シャンプー台に寝かせるところから始まる。岩見谷さんは「親はいつも子どもに付きっきり。店ではスタッフだけで対応する」。付き添いの親は少し離れたところで雑誌などを読んで待つ。

 

ボランティアは軌道に乗ってきたが、気にかかっているのは、少し上の年齢層の障害者のことだ。理容室が入る福祉施設もあるが、入所者しか利用できない。「20代の人たちこそ、若くて輝く年代。その人たちも好きな髪形になれるような場所を模索中です」と話した。

 

2012.5.28 朝日新聞