対人関係が苦手な発達障害の人の就労を目指し、金沢市に先月、農業法人が誕生した。受け入れ先として、この障害に特化した会社組織は全国でも珍しく、北陸では初めてとみられる。すぐに雇用できる状況ではないが、軌道に乗れば発達障害者を積極活用するビジネス・雇用のモデルとして注目されそうだ。
農業法人は、金沢市の薬品販売会社経営前田泰一さん(61)が設立した。勤勉で集中力があり、斬新な発想もできるといったこの障害独特の個性を生かすことを目指す。福祉や支援の対象ではなく、能力を発揮できる環境や制度を整えればビジネスとして事業展開できると株式会社にした。
前田さんは、国立大に通う長男(18)が小学校低学年の時に発達障害のアスペルガー症候群と診断され、家族や本人が参加するNPO法人「アスペの会石川」(金沢市)の副理事長も務める。発達障害者の厳しい就労環境を何とかしようと起業に至った。
農業にしたのは、自然相手で、人とのコミュニケーションが少なくて済む作業が多いため。農場として金沢市郊外に約六千六百平方メートルの土地を借りた。ブルーベリーの観光農園や自然農法でのトマト栽培を考えており、健常者と障害者がワークシェアリングで数時間ずつ無理なく働ける環境を目標にしている。
発達障害者の就労では、国や自治体も支援を始めたばかり。各都道府県に支援センターが置かれ、ハローワークなどと連携して雇用につなげる。職場に出向いて本人の個性に応じた環境調整、企業への助言をする「ジョブコーチ」制度や、会社と障害者双方が適性を見極めるために試用期間を設ける「トライアル雇用」もあるが、利用はまだ少ない。
前田さんは「障害者本人や家族だけが頑張っても、支えてくれる人がいないと事業は成り立たない。利益を出し職場として成立させるため、長いスパンで地道に取り組んでいきたい」と話している。
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