障害者弁護、派遣33件…新制度導入8か月で【大阪】

逮捕した容疑者に知的障害がある場合、裁判所や捜査機関から連絡を受け、専門の「障害者刑事弁護人」を派遣する大阪弁護士会の新制度が順調な滑り出しだ。全国初の導入から8か月間で派遣は33件。従来、福祉関係者や家族が個別に障害に理解のある弁護士を探すしかなかったのが実情といい、弁護士会側は「予想を上回る派遣件数だ。実績を重ね、『当番弁護士制度』のように全国の弁護士会に広がっていけば」と、定着を期待している。

知的障害を持つ容疑者の捜査では〈1〉取調官に迎合して虚偽の自白をする恐れ〈2〉「黙秘権」など捜査に関する言葉の意味が理解できない可能性――などが指摘されている。2010年には大阪地検堺支部が、知的障害のある男性被告について「妄想を交えて話す傾向があった」として放火事件での起訴を取り消している。

 

同弁護士会は09年から、知的障害者の特徴を理解した専門弁護士養成のため、返答を誘導しないような会話の進め方などを学ぶ研修を実施。社会福祉士らの講義のほか、障害者の協力を得て「模擬接見」も行い、主語を明確にして質問することや、「はい」「いいえ」だけの答えにつながる尋ね方を避けるコツなどを習得している。

 

こうした取り組みを踏まえ、同弁護士会は研修を終えた弁護士らを「障害者刑事弁護人」として名簿に登録(4月末で約150人)。昨年9月、大阪地裁、大阪地検、大阪府警に〈1〉知的障害者に交付される「療育手帳」を所持している〈2〉特別支援学校の通学歴がある――などを把握した場合、弁護士派遣の依頼時に伝えるよう文書で要請した。

 

同弁護士会の高齢者・障害者総合支援センター運営委員会によると、最初の連絡は同11月下旬。通院先の精神科クリニックのドアを壊したとして建造物損壊容疑などで逮捕された容疑者について、地裁から「療育手帳を持っている」との連絡が入った。

 

派遣された専門弁護士はその日のうちに接見し、その後も担当検事に取り調べでの配慮を求めたり、主治医から容疑者の様子を聞き取ることを要望したりした。容疑者は不起訴、措置入院(行政による強制入院)になったという。

 

以降も地裁から月4~8件連絡があり、先月上旬には府警からも「窃盗事件の容疑者が療育手帳を所持している」と初めての連絡が逮捕翌日に入ったという。

 

知的障害者の取り調べでは、すでに各地検が全面的な録音・録画(可視化)を試行。警察でも今月から、できる限り幅広い場面で可視化を試みる方針が警察庁から示されている。

 

2012.5.24 読売新聞