福祉施設で死亡した知的障害者(当時15歳)の遺族が、施設を運営する社会福祉法人「名北福祉会」に、将来の仕事で得られたはずの「逸失利益」を含む約7600万円の損害賠償を求めた訴訟は30日、名古屋地裁で和解が成立した。倉田慎也裁判長は就労の可能性を認め、逸失利益約770万円を支払うよう勧告、両者が応じた。
死亡したのは重度の知的障害者だった名古屋市の伊藤晃平さん。訴状によると、伊藤さんは07年12月、名古屋市北区の短期入所施設で階段から落ち、頭を打って死亡した。同会と損害保険会社は、賠償として慰謝料や葬儀費用など計1700万円を提示する一方、「将来、就労の可能性はない」として逸失利益をゼロと算出した。
遺族側は「障害者でも健常者でも命の価値は平等だ」と訴え、全労働者の平均賃金を基準にして伊藤さんの逸失利益を約4000万円と算定。慰謝料3000万円を合わせ、計約7600万円の支払いを求めていた。
この日の弁論で地裁は生命の価値は等しいことなどを考慮し、障害年金の受給額を基準に逸失利益を約770万円と算定、総額3700万円の支払いを勧告した。
記者会見した遺族側代理人の岩月浩二弁護士は「不十分ながら障害者差別の是正を図ることができた。大きな意義がある」と語った。母の啓子さん(54)は「裁判所から大きな評価をいただいた。息子に報告したい」と話した。一方、名北福祉会は「早い解決を望んでいた。遺族におわびし、晃平君の冥福を祈っている」とコメントした。
岩月弁護士によると、重度知的障害者の逸失利益が認められるケースは少なく、09年12月に札幌地裁で最低賃金を基準にした和解が成立したのが国内初。青森地裁でも同月に認める判決があり、今回が3例目という。【2012.3.30 毎日新聞】
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